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自殺者の隣人

「もう一件? どういうことですか?」

 わたしが尋ねると、自殺者が出た部屋の隣の部屋も、お祓いをしてほしいということでした。隣人が亡くなっていたのが発見されたというのです。それも、同じ時期に自殺していた……。

 そんな偶然があるものか、と思いながらも隣の部屋に向かいました。

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写真はイメージ ©️AFLO

 同じ間取りのワンルームなので、その部屋にも先ほどの部屋と同じような位置にベッドが置かれていました。そしてベッドの手前の床には、人が倒れていたであろう人間の形をした黒いシミの跡が……。

「えっ……!?」

 つい先刻見たばかりの同じ映像を、もう一度見ているような奇妙な既視感に襲われてクラクラしました。

 それほど、現場の状況がそっくりだったのです。

 依頼者の話では、隣人同士は特につながりもなく、疎遠だったそうです。なのに、同じ間取りの、隣り合った場所で、同じ時期に自殺をしていたのです。

 こちらの部屋にも、先ほどとまったく同じ死臭がただよっていました。

 現場はどこにでもある木造アパートで、隣人同士はあいさつくらいは交わしたことがあったかもしれません。しかし、現代においてそれ以上の交流がないのは普通でしょう。

 長く訪問してくる友人もいなかった孤独な二人が、なんらかの悩みや苦しみを抱えて、壁一枚を隔てたすぐ隣で、同じような最期を迎えていた……。

 自殺現場のお祓いはわたしにとってはめずらしくないのですが、二つの遺体の奇妙な一致ゆえに、今も記憶に残っている事件現場です。

なぜ祓うのか

 神道に詳しくない人には、お祓いといってもピンとこないかもしれません。

 厄祓いや煤祓いという言葉は知っていても、神主がお祓いでなにをしているのか、よくわかっていない人が多いのではないでしょうか。

 お祓いとは、よくないことが続いたとき、罪を犯してしまったとき、家を建てるなど新しくなにかをするときなどに、罪や穢れなどのよくないものを、心身やものから取り除き、浄化して清らかにすることです。

 さらに、空間の浄化作用もあります。

「少し長いはじめに」で、お祓いをした後に、不動産屋さんやリフォーム会社の方たちの憑きものが落ちたようになったのは、お祓いにより空間が浄化されるとともに、亡くなった人やそこにいる人たちの悪いものや穢れが取り除かれたためでしょう。

 お祓いにより気分も空間もすっきりとして、新しいことに向き合えるようになるのです。