この「ことばの水切り」、うまくいけば一日は余裕で潰せる。小中学生の頃などは、ひたすらこれをして遊んでいた。辞書を出しているので授業中にしていても咎められない。なので先生の話は聞かずにこれに没頭していた。数学の成績が目に見えて落ちていった。

 僕はこれを一人遊びとしてやっていたが、もちろん二人以上のパーティーゲームとして楽しむことだってできる。卓球のラリーのようにとにかく長く続けることを目的にするのもありだし、わざと説明文の短い単語をぶつけて次のプレイヤーを陥れてゆくという戦闘的なスタイルで遊んでみるのもありだ。国語辞典をひたすらぐるぐる回すという、はたから見ればとても地味な風景になるわけだが、駆け引きがものをいうだけになかなかエキサイティングになるはずだ。「実地」を引かせて追い込んだと思っても、「現場」をピックアップして少し反転攻勢に転ずることもできる。

げんば【現場】①事件が起きた、その場所。「―を押える・けんかの―・事故―」②作業をしている場所。〔狭義では、「工事現場」を指す〕「教育の―・―」

じけん【事件】〔それぞれ別の事柄の意。「件」は分ける意〕(一つ一つが世間の話題になるような)出来事。〔狭義では、訴訟事件を指す〕

できごと【出来事】世間で起こる、いろいろな事件。

 いや、「事件」って単語、今さっき引いたばかりだから! こういう同語反復が起こってしまうと、「水切り」の石が力を弱めてしまったかのように思えてしまう。しかしまだまだ言葉はそこにある。終わっちゃいない。終わらせないんだ!

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せけん【世間】自分と共に世界を形作る、一般の人びと。

せかい【世界】〔「世」は三世にわたる意。「界」はすべての地域にまたがる意〕①人間が住んでいたり行って見たりすることが出来る、すべての所。〔狭義では、地球上に存在するすべての国家・住民社会の全体を指す〕「―地図・―新記録」②そのものとその同類で形作っている、なんらかの秩序が有ると考えられる集まり。「若者の―〔=仲間〕・魚の―〔=魚類だけに何か関係のあること〕・学問の―〔=学問の領域内〕・広い―〔=世間〕を狭くする・自分の―〔=視野〕でしか物を考えない」

 ここまできたら、もう相当自由に選べる余地が生まれただろう。窮地を脱することができたわけだ。いい単語を見つけてしまったときは、本当に胸が高鳴る。さあ、次は何だ!