長男の事故をきっかけに、家族のことを改めて考えた
――つらいお話になりますが、2015年に長男の雄士さんが事故で亡くなっています。翌年のインタビューで、草刈さんは〈彼の死を境に家族の関係は、より密になったように思います〉(同前)と仰っています。草刈家はずっと親密なのだろうというイメージがあったので、この発言が少し意外だったのですが。
草刈 それまでは仕事仕事仕事で、僕は家族と向き合っていたとは言い難かったんです。それこそ、かみさんがひとりで育ててきたみたいなもので、僕はほとんど子育てにタッチしてこなかった。時間がないわけじゃなかったんです。頭の中が仕事ばかりで、子供たちや家族のことを考えようとしない。
紅蘭と雄士がまだ小さかった頃は、仕事で悩んでイライラしては、感情的になって彼らを叱ってしまうこともよくありました。叱るというより、当たっていたところがあったのかな。そういう親父で、いい親父ではなかったですね。可哀想なことをしましたよ。
――後悔がある。
草刈 息子が年頃になってからは、あまり会話もなかったですからね。
それで、あの事故が起きてしまって。家族のことを改めて考えるようになったんです。「そんなにガツガツ仕事しなくてもいいんじゃないか。仕事の前に家族じゃないか」とか「家族に対してもっと優しく接しよう」とか。
――仕事のことばかり考えていたのは、家族を養っていくためでもあったわけですよね。
草刈 そうそう。僕には、それしか考えられなかった。「九州にいた頃の生活には戻りたくない」、「僕が九州で送ってきたような生活を子供たちにさせたくない」という、恐れみたいなものがあったんですよ。
俳優という仕事に必死になってしがみついてきたのも、根底にそういったものがあったんじゃないですかね。
でも、後から知ったんですけど、息子は僕の過去の作品を観ていてくれたようでね。嬉しかったし、仕事は仕事で手を抜くわけにいかないなと気を引き締めました。
――紅蘭さんには5歳の娘さんがいますが、草刈さんはお孫さんを溺愛している状態でしょうか?
草刈 それはもうメロメロですよね(笑)。孫というのは、こんなにも可愛いものなのかと。こういうふうに子供たちにも接してやっていればよかったなと、孫の相手をしながら思います。
写真=鈴木七絵/文藝春秋