都内の企業に務める筆者(51)のスマホが鳴ったのは、夕方から大事な会議がある日の午後だった。

 画面を見ると、横浜でひとり暮らしをしている父親(81歳、元大手電機メーカー勤務)の名前。数年前から認知症の傾向が見られる父は、『○○』って本を書いた作家は誰だったっけ? というような質問を、就業時間などおかまいなしにかけてくることが何度かあった。

※写真はイメージです ©iStock.com

 今回もそうだろうと思い、半ばうんざりしながら「もしもし?」と電話に出たところ、聞こえてきたのは知らない男性の声。

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「えー、こちら、横浜市の救急なのですが、Mさんのご家族の方ですか?」

 父親が事故にでもあったのか、はたまた新手の詐欺かと思いながら、

「ええ、息子です」

 と答えると、救急隊員の口から出たのは、想像の斜め上を行く台詞だった。

「お父様がですね、新横浜のラブホテルで転倒されまして」

 へ?

「一緒にいた女性の話だと、浴室で転んで頭を打ったということです。一応意識はあるんですが、朦朧としていて出血もあるので、これから病院へ搬送します。来ていただけますか?」

誰とラブホに行ったのか

 ラブホテル? 81歳が? 誰と?――頭の中をクエスチョンマークが駆け巡る。いずれにしても入院となると付き添いが必要だが、その日の会議はどうしても抜けられない。

 途方に暮れかけたが、川崎に住んでいる姉(53)の仕事が、在宅中心であることを思い出した。もしかしたら家にいるかも知れない。父親として、娘には知られたくない事故かもしれないが、背に腹は代えられない。