救急隊に姉の電話番号を告げた数分後、当然、姉から電話がかかってきた。
「一体どういうこと?」
「俺もラブホで頭を打って病院に運ばれるとしか聞いてないんだよ。会議が終わったら行くから、とりあえず病院に行っててくれない?」
心ここにあらずのまま会議を終えると、品川駅から新幹線に乗って新横浜へ向かう。その間、頭から離れなかったのは、誰とラブホに行ったのか、だった。
父親に付き合っている女性がいるとは、聞いたことがなかった。太っていて頭髪も薄く、お世辞にも見た目がいいとは言えない。何より口の悪い、いわゆる「偏屈ジジイ」なので、女性に好意を持たれる要素がない。となると、やっぱりデリヘル――あれこれ考えているうちに病院に到着。待合室で姉と落ち合い、脳外科の医師の話を聞く。
外傷性のくも膜下出血。前頭葉が損傷しているため、怒りっぽくなるなど性格の変化がみられるかもしれない……担当医は淡々と説明を進めるが、そんなことよりも知りたいのは「どうしてラブホテルにいたのか」だ。
意識はあるというので本人に問い質したかったのだが、あいにくコロナの感染状況が悪化していた時期で、面会は全面禁止。その日は、詳しいことが何もわからないまま、入院の書類にサインだけして帰宅せざるをえなかった。
パソコンの検索履歴に驚愕
翌朝、出社の前に、父親がひとり暮らししているシニア向け分譲マンションへ向かった。何か手がかりを探しに行ったというわけではなく、保険証や診察券(搬送されたのは、消化器系の病気で入院したことのある病院だった)が必要だったからだ。