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 イ・ソンギュンらの取り調べは公開召喚調査、つまり警察が事前に日時をマスコミに伝えて無数の記者とカメラマンが集まったなかを出頭する形で行われた。これは容疑の確定していない被疑者がマスコミの晒し者になることから批判も根強いが、非公開とするよう繰り返し求めたイ・ソンギュン側の要請は退けられている。そのため取り調べのたびに膨大なニュースコンテンツが量産され、社会の関心を再燃させ続けた。

 A子の供述だけを根拠に韓国中のバッシングに晒された2人の境遇は、水原地検幹部の親族による麻薬事件とも比較されている。こちらは2022年12月から多くの物証や証言があったにもかかわらず、捜査は終了。現在はその再開を求める世論が高まっている。

 イ・ソンギュンの死はまた、2022年の悪夢に光をあてた。外国人26人と関連死3人を含む計159人が死亡した10月29日の梨泰院圧死事件がそれだ。

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梨泰院の警備が疎かだったのも「麻薬との戦争」の影響?

 ユン大統領の「麻薬との戦争」宣言直後に、ソウル警察庁は麻薬取り締まりチームの警官を当初計画の15人から50人に増員。梨泰院圧死事件が起きたのはその翌日だった。

尹錫悦(ユンソンニョル)大統領と金建希(キムゴンヒ)夫人

 事故が起きた中心部には薬物を捜査する刑事課の私服警官が数十人いたが、2017年から前年まで交通整理などにあたった警備課の警官は1人も配置されなかった。

 これについて「韓国日報」は「既存部署の人手を回せば、その部署の業務を誰がやるのか」「大統領の発言1つで警察全体が特別昇進のために振り回されるのが苦々しい」といった現職警察官の声を匿名で紹介した。梨泰院の警備が疎かになった反省は、まだ生かされていないのだろうか。

 イ・ソンギュンの死が伝えられた翌日、G-DRAGONはInstagramのストーリーに白い菊のイメージを無言で投稿。12月29日のSBS演技大賞授賞式は、スター俳優たちが喪服姿で仲間を追悼する場となった。翌日には韓国映画監督組合が追悼文を公開し、「私たちは彼を最後まで守ってやれなかった」「二度とこうした悲劇が起こらないよう、我々は力を養い、苦悶していく」と締めくくっている。

 日本では親日ともてはやされるユン大統領だが、自国での支持率は2022年5月の就任から1カ月ほどで不支持が上回り、その状況を覆せずにいる。今年4月の総選挙でどんな審判が下されるのか、世界が注視している。