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ヤヨの顔と頭に二度三度と咬みついた

 明景ヤヨが、夜食のカボチャを囲炉裏の大鍋にかけて、居間に戻りかけたとき、激しい物音と地響きをたて、巨大な黒い塊が家の中になだれ込んできたのである。

「誰だ!」

 ヤヨが大声で叫んだ。

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 だが答えはない。

 かわりにヤヨが目にしたのは熊。それも想像を絶する巨大な熊である。

 たちまち焚火は蹴散らされ、ランプが消え、屋内はまっ暗闇と化した。驚いたヤヨが勝手の方に逃れようとしたその時、片隅にいた勇次郎がヤヨの腰に飛びついた。ヤヨの背中には四男の梅吉がいる。体の重心を失って、ヤヨは大きく前にのめった。

 これを熊が見逃すはずはない。

 たちまち背中の梅吉の頭、足、腰と咬みかかり、3人を居間まで引きずり戻した。そしてヤヨに馬乗りになって前肢と胸の間に抱え込み、悲鳴を上げるヤヨの顔と頭に二度三度と咬みついた。熊はなおも勇次郎に咬みかかろうと猛り狂うが、母親の腰にしがみついたまま、熊の胸元にすっぽり入り込んだので、思うようにいかない。

 これを見たオドが外に逃げ出そうとすると、熊はヤヨ親子からオドへ標的をかえて戸口に走った。ヤヨは深手を負いながらも勇次郎の手を引っ張り、必死で熊から逃れた。

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オドは体が引き裂ける痛みに絶叫

 一方、熊に出口を阻まれたオドは、そばの物陰に急いで上半身を隠した。しかし、これを見つけた熊は猛然と襲いかかった。熊はオドの腰の辺りに激しく咬みかかり、尻から右股の肉をえぐりとり、右手に爪傷を負わせた。

「うわあ!!」

 体が引き裂ける痛みにオドは絶叫した。

 この叫びに思わず手を放した熊は、今度は恐怖に泣き騒ぐ親子のいる居間に戻った。ここで熊は明景金蔵を一撃の下に叩き殺し、怯える斉藤巌、春義兄弟を襲った。巌は瀕死の傷を負い、春義はその場で叩き殺された。この時、片隅の野菜置場に逃れていた母親斉藤タケは、わが子の断末魔のうめき声に、たまらずムシロの陰から顔を出してしまった。執拗な熊はタケを見つけ、爪をかけて居間のなかほどに引きずり出した。タケは明日にも生まれそうな臨月の身であった。