4月に総選挙を控えた韓国では、尹錫悦大統領が“脱・反日”政策を推進している。「第二の国交正常化」ともいえる現政権の動きを信じて良いのか。ソウル駐在40年のベテラン記者が分析した。
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「歴史問題はもういい」という過去離れ宣言
慰安婦問題やら徴用工問題やらあれだけ騒がしかった日韓関係が、突然の好転で静かになってしまった。ひとえに韓国での尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権登場のお蔭である。新政権スタートから約1年半、尹大統領の予想外で大胆な対日接近策が日韓関係を一気に改善させた。
日韓の両首脳はこの1年間で計7回も会っている。文在寅前政権時代とは打って変わっての緊密さだ。こうした尹大統領の決断とその後の日韓の緊密ぶりについて韓国のさる知日派学者は「これは第二の日韓国交正常化だ!」と評している。いい得て妙である。
尹大統領の対日姿勢は、端的にいって「歴史問題はもういい」という過去離れ宣言である。韓国の反日は過去、日本に支配されたという歴史に由来する被害者意識が背景だから、過去(歴史)離れとは脱・反日である。これは韓国の対日感情の大転換を意味する。だから「第二の国交正常化」なのだ。この大胆な決断は果たして韓国社会に受け入れられ、定着するのか? あるいは将来、われわれ日本サイドが気になる、いわゆる“ちゃぶ台返し”は無いのか?
歴史を振り返れば日韓は、1945年8月の日本の敗戦と韓国からの撤収後、20年もの間、国交がなかった。1965年にやっと国交正常化にもっていったのは、クーデターで政権を握った軍人出身の朴正熙大統領だった。経済建設への強い思いに、米国の要請(圧力?)が加わった“救国の決断”だった。
しかし当時の世論は朴政権を「屈辱外交」「売国外交」などといって激しく非難した。今回、徴用工問題の解決策など尹錫悦大統領の対日外交もまた、野党陣営など反対派からは「屈辱外交」「売国外交」と猛烈に非難されている。
尹大統領の決断の背景には今回も日米韓三国の関係強化を願う米国の意向があった。日韓関係の取りなし、改善ではしばしば見られるパターンである。日韓関係の劇的改善に関連して米国発でこんなエピソードがあった。
米国の「J・F・ケネディ財団」が恒例の2023年度「勇気ある人びと賞」の特別国際賞に尹大統領と岸田文雄首相を選んだというのだ。財団の発表(9月19日)によると両首脳が「過去にとらわれず希望に満ちた未来を選択した」ことを高く評価した結果という。
このニュースに接して金大中大統領が2000年に受賞したノーベル平和賞を思い出した。その受賞は、北朝鮮の金正日総書記との初の南北首脳会談実現による南北緊張緩和が主な理由だったが、同時に日本との和解・関係改善も理由に挙げられていた。1998年の小渕恵三首相との日韓共同宣言など対日和解策が受賞理由に加わっていたのだ。
こう見てくると、今回の尹大統領と岸田首相による日韓関係改善はノーベル平和賞級といっていいかもしれない。何を大げさな、と思われるかもしれないが、国際的にはそんな発想も可能なのだ。
前述のように今回の“日韓和解”には米国が一役買っていた。バイデン米大統領が2023年8月に日韓両首脳を大統領別荘のキャンプデービッドに招いたのはそのためだ。キャンプデービッドはこれまでもしばしば、国際的対立や紛争にかかわる和解や平和外交の舞台になっている。バイデン大統領は外交的手柄としてキャンプデービッドでの日韓和解を国際的に誇示したというわけだ。