父親による姉弟への悪魔のような性虐待と精神支配の末、弟は自ら命を絶った――。昨年11月に「文藝春秋 電子版」掲載された塚原たえさん(52)による実名告発は、大きな反響を呼びました。12月20日には、塚原さんご本人を文藝春秋のスタジオにお迎えし、これらの問題について議論を深める番組を生配信。司会は性暴力の被害者と向き合ってきたジャーナリストの秋山千佳さんが務め、ゲストとして『子どもへの性加害』などの著書を持ち、ソーシャルワーカーとして2500人以上の性犯罪者の治療に関わってきた斉藤章佳さんも出演。90分に及んだ番組では、塚原さんが現在の心境をありのままに語りました。

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 斉藤章佳さん(以下、斉藤) 昔から、家庭内の性虐待は存在してきたわけですが、公にされることは多くありませんでした。しかし昨今、性暴力に関する刑法改正等もあり、メディアで発信されるケースが出てきました。

 私も塚原さんの記事を読みましたが、性虐待を経験したことのない私自身までも傷ついたような印象を抱きました。いわゆる「二次受傷」です。それぐらいのインパクトを受けました。私は、普段からたくさんの加害当事者の話を聞いているのですが。

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 秋山千佳さん(以下、秋山) 読者からいただいたメールの中から、了承をいただいたものをご紹介します。この方は、10歳のときから、義理の父親からの性的虐待を受けていたと。この30代の女性がおっしゃっているのが「塚原さんが表に出てくださることで、私のような心に傷を負って生きている人々は救われると思います」というふうに書いておられるんですね。

 塚原たえさん(以下、塚原) 一人でも多くの被害者の方に、私の声が届くのは本当に嬉しいんですね。ただ、裏を返せば、それだけの被害者がいるということが本当に辛くて。

 色んな方から直接メールをいただいたりもするんですけども、今も現在進行形で父親から性被害を受けている子どもや、性被害を受けていた過去のこと……色々とメールが来るんですね。

「助けてあげたい」という気持ちがあるんですけども、やっぱり「逃げなさい」としか言えない。今は助けてくれる機関がかなり出来てきているのが救いではあります。

塚原さん ©文藝春秋

性加害者は「透明人間」

 秋山 「これって昭和の時代の話だよね」なんていうコメントがいくつもありました。しかし、現在進行形で被害に遭っている人、あるいは加害者がいるわけですよね。

 斉藤 日本全国でこのような家庭内での性虐待が起きています。家庭内だけじゃなくて、血のつながらない関係性で起きている性加害もあります。

 塚原さんが告発を決意するきっかけとなったのが、加害者からの手紙が届いたことでした。弟さんが亡くなったことを、加害者である父親は気にも留めていない。「これでは報われない」ということで、塚原さんは勇気を出して告発されたと思います。

 家庭内の性虐待に限ったことじゃないんですが、「性加害者は透明人間になる」と、我々はよく言うんですよね。なぜなら、被害者側の告発がないと彼らの姿が見えてこないからです。

 今回の告発がなければ、加害を続けてきた父親は、旧ジャニーズの事件みたいに加害者が亡くなってから告発されていた。このため、告発されても加害者の姿がないという可能性がありました。しかし、塚原さんの告発により、加害者の輪郭が見えてきた。

斉藤さん ©文藝春秋

 秋山 斉藤さんが今おっしゃったように、性加害者はなかなか実態がわからないところがあるわけです。先月(2023年11月)に出た『子どもへの性加害』という斉藤さんの著書が、まさに性加害者の輪郭を描き出しています。性被害の当事者である塚原さんは、この本の内容をそのように受け止めましたか?

 塚原 加害者側のコメントなので最初は怖いと思いました。でも、読んでいくうちに「これは父親と被るな」と思った部分がかなりありました。

 一番印象に残ったのが「グルーミング」についての内容です。「誰にも言っちゃいけないんだよ」「外で言っちゃダメなんだよ」「2人だけの秘密だからね」という言葉が、まさに私にも当てはまりました。

 この言葉があることで、歳を重ねていくにつれて性被害を認識したときに、共犯のような感覚になるんですよね。「自分が悪い」という感覚になってくる。それで外では言えなくなってしまうんです。

真っ暗なトイレに閉じ込められて

 秋山 塚原さんの幼い頃の写真も表示しながら、グルーミングについてうかがっていければと思います。塚原さん、これはおいくつのときのお写真でしょうか?

 塚原 これは2歳ぐらいだと思います。山口県宇部市にあるときわ公園のボートで撮った写真ですね。