どれだけ着込んでいても、刺すような寒さで体がこわばる。暗く、長い石川県の能登半島の冬。
「君と同じ若い女性の被災者に話を聞いてきてくれないか」
昨年の4月に新入社員として週刊文春に配属されて以来、初めての災害取材。ベテラン先輩記者にまじって被災地を訪れた私はそんな指示を受けていた。
寒さに震えながら、意識は膀胱に集中していた。昼間、水分を口にした我が身を呪う。尿意が頂点に達するころ、膨張しきった膀胱が下腹部に鈍い痛みを走らせる。深呼吸を繰り返して気を紛らわせようとしたが、鈍痛で意識が遠のくような感覚すら覚えた。
トイレに行けないことがこんなにもつらいことだとは――被災地取材の初日、断水の現実を自分自身で思い知らされた。だが、避難を余儀なくされている女性の被災者たちはこんなことを言う。
「夜、トイレには絶対一人で行かない」
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被災地の深刻な課題
2024年1月1日16時10分、能登半島を震源として発生した地震は正月気分を一掃した。13日までに220人が亡くなり、安否不明者は26人、重軽傷者は1000人超。
生活への影響も深刻だ。張り巡らされた道路、電気、水道といったライフラインはずたずたになり、避難所に身を寄せる人々に今も不便を強いる。
飲料水は救援物資として行政、ボランティアの手によって迅速に被災者たちの手元に届いた。だが、風呂、洗濯、便所に必要ないわゆる生活用水が足りない。