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「ペルー風の沖縄そばがある」「ブラジルのソーセージを食べて泡盛を…」横浜・鶴見で南米と沖縄の文化が共存する“深いワケ”

2024/01/21
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店内で長渕剛の『とんぼ』が流れはじめ…

 筆者が店内のBGMを気にしていたら、店員の方が気を遣ってくれたのか、音楽を変えて長渕剛の『とんぼ』を流し始めたんですよ。それを聞きながら、岐阜の南米系のバーで長渕の歌を合唱したことを思い出しました。

 そのお店で、日系ブラジル人の奏者が筆者に「君、ブラジルの曲ばかりでわからないだろう。日本の歌を歌おう」と言いだし、『とんぼ』をギターで演奏しはじめ、そこにいる全員が『とんぼ』を大合唱しはじめたんですね。もちろん筆者も歌いましたが、未体験の世界でした。

 話を鶴見に戻します。「パライゾ ブラジル ヨコハマ」でも長渕剛の音楽に変えられ、『とんぼ』が流れ始めたときは「また長渕か……! なぜ長渕なんだ……!」という思いが駆け巡りました。日本語を話せそうなお客さんが来た時に「なぜ南米系のお店で長渕剛の曲を流すのですか?」と聞いてみました。すると、こんな答えが返ってきたのです。

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ノートパソコンを開いて、YouTubeで長渕剛の歌を流してくれました

長渕剛の『とんぼ』は思い出の歌

「長渕の『とんぼ』が流行った当時、南米で育った日系人がたくさん日本に働きに出ていたので、みんなの思い出の歌なのですよ」

 なるほど。「じゃあ長渕が南米でツアーをしたことがあるわけではないんですね?」と重ねて聞いてみると、店員さんとポルトガル語で確認し合ったあと、「そういうわけではないです」と答えてくれました。

 別の日系人の方に聞いてみると「当時、日本からVHSの前の……ベータ(ベータマックスのこと。家庭向けビデオテープレコーダ)で紅白歌合戦の録画が送られてきていたので、それを見てたんです。紅白って毎年同じ曲を歌うじゃないですか? だからみんな『とんぼ』とか『酒よ』とか『津軽海峡冬景色』を何回も聞いて覚えたんですよ」と言っていました。そういう背景もあって、よく長渕剛が流れるのかもしれませんね。

「パライゾ ブラジル ヨコハマ」の店員さん。ごちそうさまでした!

ペルー中華料理「Chifa(チーファ)」を食べて大満足

「パライゾ ブラジル ヨコハマ」を出たあとは、ペルー料理屋の「エル・パイサノ」に行きました。口コミで、海鮮食材豊富なマリネ「セビーチェ」と揚げワンタンが絶品だ、という声があったので、ぜひ食べてみたかったのです。

 セビーチェは店によっては辛いのですが、「エル・パイサノ」は辛さがほどほどで、海鮮が盛りだくさんでした。揚げワンタンは、町中華ともガチ中華とも違う「Chifa(チーファ)」と呼ばれるペルーの中華料理で、こちらも大満足。

「エル・パイサノ」で食べた海鮮食材豊富なマリネ「セビーチェ」と、ペルー中華料理の揚げワンタン

 昔、福建省あたりの中国人がペルーに移民したときに、彼らの言う「チーファン(吃飯。飯の意味)」が転じて、ペルー中華料理が「Chifa」と呼ばれるようになったそうです。「エル・パイサノ」では、揚げワンタンのほかにもペルー中華料理が食べられます。鶴見には、ほかにもペルー料理屋があるので、好きなお店を選べるのが素晴らしい。

 皆さんも、歴史がつくった逸品を食べて飲むために、鶴見へ行ってみませんか?

写真=山谷剛史

移民時代の異国飯 (星海社新書)

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山谷 剛史 ,小林 銅蟲

星海社

2022年4月27日 発売

「ペルー風の沖縄そばがある」「ブラジルのソーセージを食べて泡盛を…」横浜・鶴見で南米と沖縄の文化が共存する“深いワケ”

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