「アッラ~フ、アクバル(アッラーは偉大なり)」「アシュハド・アン・ラ〜、イラ〜ハ、イッラッラ〜(アッラーの他に神は無しと私は証言する)」

 5月21日、午後7時より数分前。マグリブ(日没後の礼拝)の時間になり、モスクの広大なホールにアザーン(礼拝の呼びかけ)の声が朗々と響く。その後、イマーム(イスラム教の宗教的指導者)が他の信者の前に立ち、メッカの方角に向かって全員で祈り、ひざまづく。そしてクルアーン(コーラン)の詠唱がはじまる。

祈る人たち。手前はパキスタン人で自動車販売関連業。奥はトルコ人で障害者支援の仕事をしている。2022年5月21日。撮影:Soichiro Koriyama

 ここはトルコのイスタンブール、窓の外に金角湾を望む荘厳なモスクのなか……ではなく愛知県津島市蛭間町。愛知県道79号あま愛西線沿いにある津島アヤソフィアモスクである。

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 このモスクは、かつて「パーラーサカエ」の名で営業していたパチンコ屋の建物を、居抜きで改造したものだ。しかも、同じ県道沿いの東に150メートル隣の敷地にも、やはり倒産したパチスロ屋「SLOT A-FLAG」の建物を居抜きした「ザ・ジャパンモスク」という巨大なモスク(後述)が建っている。

 つまり津島市では、ほぼ隣接した2つのパチンコ屋跡地に、中東由来の宗教施設が軒を連ねて信仰を集めているという奇観が見られるのだ。

国道沿いの宇佐美車検とザ・ジャパンモスク。なにがどうなっているんだ……。2022年5月21日。撮影:Soichiro Koriyama

 この場所を紹介してくれたのは、4月27日に『移民時代の異国飯』(星海社新書)を刊行したライターの山谷剛史氏である。同書は愛知県についても各地の食事スポットを紹介しているが、味や内装が日本人向けに“翻訳”されていないガチな異国飯店舗の分布は、ディープな外国人コミュニティそれ自体の場所を示すものでもあった。(全3回の1回目/#2に続く

トルコ共和国宗務庁、イマームを送る

「今日のマグリブの礼拝は人が少ない(パキスタン人2人とトルコ人3人)ですが、金曜日の昼の祈りのときは80~100人くらいが来ます」

 イマームのセダトさんはそう話す。50歳の彼はトルコ共和国の宗務庁から派遣され、過去にはドイツのモスクに20年近く赴任していたという。ベテランだけにクルアーンを読むときの節回しが美しく、ムード歌謡のようで耳に心地いい。

セダトさん。服を着替えると荘重さが一気に増す。2022年5月21日。撮影:Soichiro Koriyama

「東京ジャーミイ(都内の代々木にある、トルコ政府の援助を受けている有名なモスク)のイマームは友人です。3年前、同時期に来日しまして」

 こうした言葉を日本語に訳してくれているのは、セダトさんの息子で17歳のエンサール君だ。お父さんの仕事の関係で、トルコ語とドイツ語と日本語の3言語を話すことができる。