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パチンコ屋“居抜き改造”モスクが確変2連発!…タモリ倶楽部も取り上げた「イスラミック名古屋」のディープな深層

モスク・イン・“中日本” #1

2022/06/04
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 エンサール君は現在、高校3年生であり、学校生活について尋ねると「バスケ部っす」。来日3年目なのに、言語も日常生活も日本にすっかり馴染んで暮らしている(もっとも、卒業後の進路はトルコの大学に進みたいという)。

マーベル映画のワンシーンみたいだが、息子さん(高3)は愛知県内の高校でバスケ部所属。2022年5月21日。撮影:Soichiro Koriyama

「このモスクでの礼拝は2ヶ月前からはじまりました。実はまだ、本オープンではないんです」

 津島アヤソフィアは、最近になって完成したばかりだ。本来、トルコ共和国大使ほかトルコ政府の関係者、津島市の市長や警察署長らを招いた落慶セレモニーを開く予定があるのだが、コロナ禍の関係でトルコ国内からの来賓の訪日日程のメドが立たないらしい。

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「なんでかわからんけど」オルドゥ出身トルコ人が数百人

「なぜこの場所にモスクを建てたか? うちの会社の隣にあるパチンコ屋が潰れて、3000万円で売られていたんだよ。だからモスク作ることにしたけど、内装工事やなんやかんやで、最終的に1億8000万円以上はかかった。寄付とトルコ政府の援助があっても、大変やったよね」

 流暢な日本語でそう説明するのは、モスクの事務方を取り仕切るレカビさんだ。彼の本業は、モスクの隣りにある解体業者の社長で、大柄な体型と歯切れのいい尾張弁がいかにも現場の親方っぽい。ただし、名刺の肩書きは「イスラミック学術日本文化センター」の代表理事。愛知県のトルコ人たちのリーダーの1人だ。

津島アヤソフィア全景。そもそもトルコにある本家のアヤソフィア・モスクも、オスマン帝国のメフメト2世がコンスタンティノープルの大聖堂を居抜きした物件であり、パチンコ屋の居抜きくらいは些事なのである。2022年5月21日。撮影:Soichiro Koriyama

「私たちの故郷はオルドゥ。愛知県のトルコ人はオルドゥの人が多い。なんでかわからんけど。たぶん最初に来たトルコ人が、オルドゥの人だったのかな。それで、親戚や友達が頼ってきたんやと思う。津島市だけで、トルコ人が700~800人おるよ」

 レカビさんの話に、他のトルコ人信徒たち数人もうなずいた。どうやら(来日経緯が異なるイマームのセダトさん父子を除くと)みんなオルドゥ県出身のようだ。イスタンブールやアンカラのような日本人に馴染み深い街からは遠く離れた、トルコ北部の黒海沿岸に位置する田舎県である。

 日本語版や英語版のウィキペディアによれば、オルドゥ県は観光業とヘーゼルナッツの栽培で知られる土地。だが、県外への移住を選ぶ住民も多いという──。つまり、移住の結果として愛知県にやって来たグループもいたわけだ。

 ちなみに同県は立地的に、黒海をわずか数百キロ挟んでウクライナと向かい合っているが、レカビさんいわく「うち、関係ないです」という。オルドゥ県民からすれば文字通りの対岸の火事という認識らしい。