2021年に起きた「ゲームストップ株騒動」を描いた映画である。この騒動は日本でもかなり話題になったらしい。「らしい」というのは、私自身が投資の世界に疎いからだ。

 私が株式投資と縁遠いのは何かの哲学や信念を持っているからではない。哲学、信念もなければ金もなかった。経済的余裕がなくてずっと投資の経験を積めなかったのだ。それゆえ投資と聞けばリスクばかりが頭に浮かんで何となく怖い。つまり私は古いタイプの庶民の典型だ。現在の若い庶民はちょっと違い、専用アプリを用いて就業中にもちょくちょく株式売買をするものらしい。

“ローリング・キティ”として配信中のキース・ギル(ポール・ダノ)©2023, BBP Antisocial, LLC. All rights reserved.

小口投資家 VS ヘッジファンドの実話を映画化

 この映画はそんな小口投資家たちと莫大な資金力にモノを言わせるヘッジファンドとの戦いを描いている。簡単に言えば庶民と大金持ちの戦いである。それはまるでジャイアントキリングを扱ったスポーツ映画を観るように痛快だ。ここでのジャイアントキリングをたとえるならば、高校生ピッチャーがプロを完封する、あるいはもっと大きく草野球チームがメジャーオールスターにサヨナラ勝ちするレベルかもしれない。

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“ローリング・キティ”の主張を信じて投資した庶民として描かれるのは、同性カップルの大学生や、パンデミックに忙殺される看護師など。彼らも事件の当事者となり、人生が激変する ©2023, BBP Antisocial, LLC. All rights reserved.

 冒頭大手ヘッジファンド側の人物を紹介する映像が続き、そこにその人物の資産額が表示される。「4億ドル」「120億ドル」「160億ドル」。対する主人公キース・ギル(ポール・ダノ)はほぼ全財産5万ドルをゲームストップ株に投資している。つまり円換算で兆を超す資金を持つ相手に数百万円を元手に戦いを挑んだのだ。

コロナ禍で両者の差はより鮮明に

 両者の差を表しているのはそれだけではない。ヘッジファンドの運営者はフロリダの豪邸を購入するため下見をしている。そこに住むためではなく、その豪邸を取り壊して家族用のテニスコートを作ろうというのだ。コロナパンデミックの最中、他人と接するクラブでのテニスはリスクが伴うからで、「早くしろ、でないとコロナ騒ぎが終わってしまう」と悪態をつきながら彼は業者をせかす。

 一方主人公キースはコロナで姉を失い、家族全員が悲しみに打ちひしがれている。その家族とは元トラック運転手の父、元看護師の母、ウーバーイーツの配達で糊口を凌いでいる弟。