3月10日(現地時間)に授賞式が行われる第96回アカデミー賞の注目候補作をチェック! 作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、脚色賞など11部門にノミネートされた『哀れなるものたち』。ヨルゴス・ランティモス監督のインタビューを転載します(初出『週刊文春CINEMA』2023冬号。情報は掲載当時のものです)。
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これからの数カ月、ヨルゴス・ランティモスは忙しい日々を送ることになるだろう。2018年にも『女王陛下のお気に入り』が、オスカーをはじめあらゆる授賞式に引っ張りだこだったが、今年もまた『哀れなるものたち』が業界人の間で大きな話題なのだ。世界プレミアが行われたヴェネツィア映画祭では、最高賞である金獅子賞を受賞。Rottentomatoes.comによれば、批評家の95%が賞賛している。
もし2011年に実現していたら…
母国ギリシャで撮影した『籠の中の乙女』(09年)から『女王陛下~』まで、ダークで独特な世界観を持つ映画を5本作り、芸術派の監督としての立場を確立したランティモス。『哀れなるものたち』は、彼のキャリアで、最も大規模かつ大胆な意欲作だ。実は、彼がこのプロジェクトについて考え始めたのは今から12年も前のこと。思いのほか時間がかかったが、実現したのが今だったのは良かったと本人は思っている。
「ヴェネツィア映画祭でお披露目した時から、そのことについては時々考えてきたよ。この映画を作りたいと思ったのは2011年だけど、その時は実現しなかった。自分なりに頑張ったが、作らせてもらえなかったんだ。だけど、もしもどこかが作らせてくれていたとしても、今と同じような評価はもらえなかっただろう。この数年間、僕は少しずつ大きい映画を作るようになってきて、フィルムメーカーとして成長してきた。そして今、ようやくこの映画を作る準備が僕自身にできたんだ。世の中も変わった。少し前だったら受け入れられなかったかもしれないことを、今の人々は受け入れられるのだと思う」
たしかに、12年前の観客はこの映画にどう反応したのかはわからない。フランケンシュタインを彷彿とさせるこの映画の主人公は、天才的な外科医バクスター(ウィレム・デフォー)と、彼が面倒を見る若い女性ベラ(エマ・ストーン)。体は大人だが頭は子供であるベラは、性の悦びを発見しても、恥ずかしさや奥ゆかしさというものをまるで持たず、堂々とふるまう。女性はこうあるべきだという男性側からの押し付けが強かった時代、常識に制限されることなく思うままに生きるベラは、ある意味、フェミニズムの象徴でもある。