「僕が一生、全力でお守りします」。1993年1月19日、皇室会議を経て、天皇皇后両陛下の婚約が正式に内定した。その際の記者会見で、雅子さまは心を打った言葉として陛下のプロポーズの言葉をあげられている。
あれから30年。当時、雅子さまのヘアカットを担当していた多田修さん(東京・恵比寿の美容院「プレジール」代表)に会見当日の秘話を伺った(聞き手・佐藤あさ子)。
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初めてお会いしたときは、きさくな大学生
――多田さんは、雅子さまの大学時代から婚約されたころまで、西麻布の美容院「ヒロイン」でカットを担当していたそうですね。
多田修さん(以下、多田) 初めてお会いしたときは、きさくで感じのいい大学生という印象でした。妹さんのご紹介で、ご結婚までの10年ほどお店に通っていただきました。外務省一種の国家試験に1回で合格されたときのショートカットは、前任者が担当していました。私はその頃に引き継ぎ、だんだんとボブに変えていったんです。外務省を退職されるときには、「プリンセスボブ」という雅子さまらしい、ちょうどいい長さになっていました。
――雅子さまから、スタイルや長さに関してオーダーはありましたか?
多田 ほぼお任せでしたが、あの時代、流行っていたので「ソバージュにしたらどうですか?」と提案したところ、「まあ、まあ」とおっしゃって、トライすることはなかったです(笑)。何センチ切ってください、という感じで。あるとき、お妃候補にあがっていたのは知っていましたが、まさかご結婚されるとは思いもよりませんでした。
――途中で雅子さまのご様子が変わったとか、そういうことはなかったんでしょうか。
多田 ほとんど変わりませんでしたよ。ただ、1992年の年末に雅子さまがセットにいらしたときのことは忘れられません。あとから考えれば、陛下のプロポーズをお受けして間もなくのタイミング。きっと陛下とお会いする前だったんでしょうね。
このとき、いつものように冗談を言いながらセットをして、「今日はどちらへ行くんですか?」とお尋ねすると、「ちょっと今日は……」とおっしゃる。普段なら入り口までお見送りするのですが、年末で何しろ忙しかったので、「ここで失礼します」とお別れしました。そのとき、めずらしく雅子さまが振り返って、何か言いたそうなのはわかっていたんですが、私が「じゃあまたね」と言ってしまったんです。