「多田さんに(婚約を)言おうと思ったんですけど……」
そうしたら年明けの1月6日に、「皇太子妃内定」と一斉に報道されたでしょう。「えー!」ですよ。その後すぐ、「ヒロイン」へ来られたんです。お店の個室に入ったとき、雅子さまから「多田さんに(婚約を)言おうと思ったんですけど……」と打ち明けられました。私は事前にそのトップシークレットをお聞きできていたかもしれなかったということで、さらにびっくり。「申し訳ございません。あの時は忙しくて」と言って謝りました(笑)。
――それは、よほど多田さんのことを信頼されていたんですね。
多田 雅子さまのご友人もカットさせていただいていたこともあり、長年のお付き合いで、本当にありがたいことでした。私のほうは大スクープを逃したと思いつつ(笑)、雅子さまからは今後のスケジュールと洋服に合わせる髪型について相談したかったとのことでした。婚約内定記者会見などのために用意された洋服を、実際に雅子さまが着て撮影したポラロイド写真を見せていただいて、髪型のイメージを固めていきました。
婚約発表後、世間はとにかくすごい騒ぎです。これは大変だと思って「私がご自宅に伺いましょうか」とお聞きしたら、「そうしていただければ」というお返事でした。
婚約内定記者会見の想定問答集が…
――雅子さまのカットやセットのために、どのくらいの頻度で小和田邸へ通われましたか。
多田 大体月1回のペースです。ご自宅には5~6回伺ったと思います。リビングにピクニックシートを敷いて、椅子をお借りして座っていただきました。その傍らのテーブルに記者会見の想定問答集のようなものが置いてあったこともあって、セットをしている間に受け答えの練習をされていましたね。記者会見の直前まで、真面目に取り組んでおられました。
ご結婚が決まって雅子さまはうれしそうなご様子で、身近に接していて、自然とにじみでる期待感というものがあったように思います。小和田邸にお伺いすると、お手伝いさんが呼びに来られるんです。「まあちゃん、皇太子さまからお電話ですよ」って。そうしたら、「はい」とおっしゃってスッと席を外される。カット中なのにな、なんて思いながら、そんな微笑ましいことも何度かありましたよ。
――1993年1月19日、皇室会議を経て、ご婚約が正式に決まりました。当時の皇太子殿下が32歳、雅子さまは29歳。この記者会見での髪型も多田さんが担当されたのですか?
多田 そうです。当日も小和田邸に伺って、ヘアセットをさせていただきました。お召し物にあわせて、ヘアスタイルのバリエーションはたくさん考えましたよ。ヘアスタイルが一番よくわかるのは、やはり婚約会見の黄色いお帽子のとき。それからブルーグリーンの洋服をお召しになった「告期の儀」での編み込みでしょうか。このときはサイドを編んでいて、スリーポイントっていうちょっと面白い留め方をしているんです。どちらも、印象深いですね。