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こうして「第4回全国魚通選手権」から5連覇を果たし、殿堂入り。そして少年だった宮澤正之は、ある時からハコフグの帽子がトレードマークのタレント「さかなクン」(ちなみに名付け親は、中村有志である)として、ユニークなキャラクターが人気を呼び、テレビでもよく姿を見るようになった。

その一方で、東京海洋大学から名誉博士号を授与され、さらに客員准教授に就任するなど魚類学者としても活躍している。このあたりは、改めていうまでもないだろう。いまや魚のことなら生態から美味しい食べかたまでどんなことでもわかりやすく教えてくれる先生として、唯一無二の存在だ。

『TVチャンピオン』がテレビ界に起こした革命

さかなクンが『TVチャンピオン』から誕生した背景には、この番組がテレビに起こしたひとつの革命があった。

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テレビの本放送が始まって約70年。黎明(れいめい)期のころから、視聴者参加形式の番組も多いバラエティにおいては、素人が存在感を発揮してきた。ただほとんどの場合、素人はプロの芸人などから「いじられる」存在にすぎなかった。

1970年代に素人を積極的に起用して一世を風靡(ふうび)した『欽ちゃんのドンとやってみよう!』(フジテレビ系、1975年放送開始)など「欽ちゃん」こと萩本欽一による一連の番組が典型的だ。1980年代に入っても、基本は変わらなかったとみるべきだろう。

ところが、1992年に始まった『TVチャンピオン』は違っていた。この番組の素人は、「いじられる」存在ではなくなった。さかなクンのような特定の分野についてのきわめて豊富な知識や「和菓子職人選手権」の職人たちのような超絶技巧、さらには「大食い選手権」の参加者たちの人並外れた食欲など、誰にも真似できないような能力を披露して驚嘆される存在になった。

要するに、素人は「いじられる」存在から「すごい」存在になったのである。

素人そのものに焦点を当てた

世の中には、無名でも実はすごい特技を持った人たちがたくさん隠れている。『TVチャンピオン』は、そのことを知らしめる画期的な番組になった。それは、派手ではないがテレビ史におけるひとつの革命、静かな革命だった。