「第一の敵」は日米韓3カ国だ。特に金正恩氏は韓国への憎悪を隠さない。1月15日の最高人民会議(国会)での施政方針演説では、「大韓民国を第一の敵対国、不変の主敵」と位置付けるよう訴えた。日米韓が15日から17日にかけて済州島沖で合同海上訓練を行うと、北朝鮮は19日に核無人水中攻撃艇の試験を行ったと明らかにした。米専門家の一部から「北朝鮮は戦争の決意をした」と危ぶむ声が出るなど、大いに関係者を騒がせている。
大規模な組織改編に着手
朝鮮労働党の元幹部は「正恩は、このままでは韓国に吸収されるという危機感を持っている。敵対関係という定義は、食うか食われるかの覚悟で臨むという決意の表れだ」と語る。もちろん、覚悟だけでは戦えない。軍事的には様々なタイプの核兵器やミサイルの開発を進めている。さらに、金正恩氏は北朝鮮の党・政府組織を「韓国と戦える組織」とするよう改造に着手した模様だ。
15日の最高人民会議は、祖国平和統一委員会など対南機関三部門の廃止を決めたが、大規模な組織改編はこれにとどまらないという。日朝関係筋によれば、北朝鮮は最近、在日朝鮮人らに「本国の指示があるまで、訪朝などの問い合わせを控えるように」と指示した。関係筋は「朝鮮総連を担当する党統一戦線部も組織改編の対象になっているため、受け入れが難しいようだ。場合によっては、総連担当部署が党から政府機関に格下げになる可能性もある」と語る。
韓国への敵意
同時に、北朝鮮は今年秋の米大統領選でドナルド・トランプ氏が当選することを想定した戦略作りを急いでいる模様だ。トランプ政権が来年1月に誕生すれば、北朝鮮との核廃絶交渉を、事実上核保有を認める核軍縮交渉に切り替える可能性がある。場合によっては、北朝鮮と中国が渇望する在韓米軍の撤収にも応じるかも知れない。
韓国政府の元高官は、韓国を「敵対する国家」と位置付けた北朝鮮の思惑について「米朝協議を進めるうえで、韓国が朝鮮半島唯一の合法政府だと主張して邪魔をすることを防ぎたいのだろう」と語る。
この思惑は、正恩氏が1月5日、能登半島地震について岸田文雄首相に送った見舞い電からも見て取れる。太永浩氏は「2018年から19年にかけて行われた米朝首脳会談を巡る日本の姿勢を検証した結果だ」と語る。