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内側に潜む「第二の敵」

 トランプ氏は18年6月、シンガポールで開かれた第1回米朝首脳会談で米韓合同軍事演習の中断を認めた。当時、安倍晋三首相は演習の中断に反対し、同時に米朝が核軍縮交渉を始めないよう申し入れた。太氏は「正恩氏はトランプ氏と再協議を始める際、日本を黙らせる必要があると考えている。そのために、事前に日本に接近しているのだろう」と指摘する。

 敵は外にばかりいるわけではない。金正恩氏らの「第二の敵」は北朝鮮にはびこった拝金主義だ。正恩氏は1月15日の演説で「経済部門が自らの利己主義を追求した時代は終わった」と語った。朝鮮労働党の元幹部は「正恩は市場経済を一掃する考えなのだろう」と語る。

 北朝鮮は大量の餓死者を出した1990年代の半ば以降、生き残るために市場経済を一部導入した。その副作用として、国外から映画やドラマなどの情報が流れ込んだほか、「金主(トンチュ)」と呼ばれる新興富裕層の台頭を許した。

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新しい冷戦時代の始まり

 脱北者らによれば、北朝鮮の庶民は「我々には、ふたつのダンがある」と言い合っている。「労働党(ロドンダン)」と「市場(ジャンマダン)」という意味だ。人々は安くて質が良い市場に走るため、国家の経済統制力が弱まっている。資金不足に悩む国営企業や集団農場が金主から金を借りるため、金主の影響力は無視できない状況だ。

 悪質な金主が庶民から金を巻き上げたうえで、粗悪なアパートや低品質の商品をつかませる詐欺事件も起きるなど、治安問題にも発展しているという。脱北者の一人は「バスに乗るときでも、料金表は関係ない。運転手が満足するだけの金額が集まらないと、バスは発車しなかった」と嘆く。

 しかし、今や新しい冷戦時代が始まった。北朝鮮は少なくとも国が崩壊しない程度の支援は、無条件で中国とロシアから得られるようになった。韓国・国民大学校のアンドレイ・ランコフ教授は「宝くじに当たったようなものだ」と語る。生きていけるだけのカネが手に入るのなら、体制を脅かす市場経済などに用はない。