母親たちへの脅迫
米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア」などによれば、北朝鮮は最近、市場ではなく、政府が運営する糧穀販売所を利用するよう指示している。市場での現金取引を禁じ、政府が発行する電子カードを利用するよう求めている。元幹部は「正恩は金主を潰す気だ」と話す。
そして、正恩氏が懸念する「第三の敵」は、北朝鮮の若い世代だ。太永浩氏は「北朝鮮では30代ぐらいまでの世代とそれ以上の世代が断絶している」と語る。若い世代は韓国映画・ドラマを見て、韓国のファッションや言葉遣いを模倣する。生まれた時には、国家の配給制度が崩壊していたため、国の恩恵を感じず、金正恩氏や朝鮮労働党の権威も認めていない。
正恩氏は昨年12月4日、平壌で開いた「全国母親大会」で演説し、「幼い時には礼儀正しく、純真であった子供が次第に道徳に欠け、悪い影響を受けるのは、子供が育つにつれて母親の関心が薄らぐからだ」と指摘した。自分たちの責任を棚に上げて、母親に思想統制の先兵になれと脅迫する発言だ。
「魔改造」が行きつく先は
太氏によれば、正恩氏は「韓国文化との戦争」を宣言。反動思想文化排撃法や平壌文化語保護法などを次々に制定し、韓国映画を広めた人間を銃殺するなどしてきた。しかし、「韓国ドラマを盗み見た」「韓国のファッションを真似た」といった事件が相変わらず、発生している。太氏は、正恩氏がキム・ジュエ氏の「早すぎる登場」にこだわる背景には、若い世代に対して「自分(正恩氏)が死んだら、韓国と統一できるなどと考えるな」というメッセージを送る思惑があるとも指摘する。
結局、キム・ジュエ氏への後継作業、韓国への憎悪や日本へのすり寄り、党・政府機関の改編、市場経済の排除、若い世代に対する思想統制の強化などは、金正恩氏とその取り巻きが一日も長く生きながらえるための「魔改造」だと言えるだろう。北朝鮮の人々は、政府から「戦争が近いぞ」と脅され、市場で買い物をしたり、韓国ドラマを見たりする楽しみを奪われることになる。「魔改造」が北朝鮮をどこに誘うことになるのかは、まだわからない。