――16年ぶりに書いてみようと思った理由は何だったのでしょうか?
万城目 デビュー前に京都を書いたら、次は奈良を書いて大阪を書いてみたいなことを適当に考えてまして、それでデビューできたんでその通りにやっていって、それからどうしようかというふうに考えたら、滋賀を書いたりとか、どんどんどんどん京都から離れていってしまいまして、どうしても次はこういうのを書きたいっていうのが勝手に浮かんでくるんで、それを一個一個つぶしていくうちに、また京都に帰ってもいいかなと思うようになるのに15、16年かかったっていう自然な感じでした。
投げたら勝手にスライダーになってしまう
――選考委員の林真理子さんの選評の中で「日常にふわっと入り込む非日常が、もう本当に巧みである」とおっしゃってたんですが、日常にふわっとかどうかは別として、非日常が入り込んでくるというのは、もう万城目さんの最初からの万城目節というか、万城目ワールドの特徴だと思います。なぜ非日常が入ってくるんでしょうか?
万城目 そこはもう癖といいますか、勝手に投げたらスライダーになってしまうみたいな、そういうのに近いところがあって、結構、今までも直木賞の選評を見ると、そのスライダーをやめろと、普通にストレート投げたらもらえないこともないみたいな感じの優しいアドバイスくれる方いっぱいいたんですけど……。それはそれでわかるんですよ。それはストレートを投げたらそれにこしたことないと思うんですけど、また次書くとどうしてもね、そういうのが入ってきちゃうんですよね。
そっち(非日常)の方が話が膨らむというのが自分でもわかるんで、ついそっちを選択してしまい、そしてノミネートされるとまたスライダーだと指摘されているのをずっと続けてきたので。だから今回も駄目だろうと思ったのは、今まで落とされてきた要素を別に忌避するわけでもなく、そのまま前と同じベクトルで書いてたから、今までの感じで行くんやったら、今回もあかんわなっていう、そういうこっちの見立てだったので、なぜその評価の方に変ってくれたのかっていうのが、ちょっとこれから聞きたいぐらいな……いや、怖いから聞かないですけど(笑)。