――今のお話を受けて、同じく選考委員の林さんは最後の方に、「ふっと肩が抜けて」とか、「さりげなく」っていう言葉を使われてたんです。今まではスライダーを投げるにしても、かなり肩に力が入っていたものが、今回は力が抜けたスライダーだったというような実感はありますか。
万城目 うーん、ないですね(笑)。でも、ただ話の内容的にそれが過剰にはにじみ出ない話の内容だったんで、その話にあった非日常の加え方っていう、そういう風なのはどうしてもあるんで、題材の選択がたまたまいいバランスというか、味付けになったような気もします。
手応えは感じたが、その書き方はもう忘れてしまった(笑)
――京都が舞台というのに加えて、今回また青春小説ということで、ある種の原点回帰とも言えるのか? またそれを今書ける新しさがあったのか? 万城目さんの中ではどのような位置づけの作品になったのか教えていただけないでしょうか?
万城目 毎回書けばいいじゃないか、っていう風になるんですけど、やっぱり青春小説じゃない話もいっぱい書きたいんで、ちょうどそれを書くというタイミングが来るのに、十何年かかったっていうこともあるんです。それでも今回『八月の御所グラウンド』を書いた後には、今まではあんまり感じたことがない……そんなに長くない作品なんですけど、書いた後に何か今回はちょっと違うものを書いたような気がする、と。
手応えというか、何かそのときに分かった気がしたんですが、このやり方で書くと、こういう手応えの良い作品が書けるってそのとき思ったんです。けれども次の日に全部忘れちゃって、書き留めたらよかったなと(笑)。何かしらがね、いい方向にいったんですよ。それはまだ何かちょっとわかんないです。
大学生が草野球するっていう、それだけの話なんで、放っておいても青春小説にはなるんですけれども……昔よりやはり年を取った分、『鴨川ホルモー』のときは本当に20歳、21歳、22歳とか本当に同世代の人たちの横の関係の話しか書けなかったんですけど、やっぱ46歳、47歳になって、15、16年経って書いたときには、20代の学生の話とその上の世代、60代とかのちょっとおじさん世代の話も入れられて、さらにその上の世代というのも、結構短い作品の中でたくさんの縦のラインとかを、ボリュームが少ない中にも入れたっていうのが、多分、前とは全然違う。技量なのか何か分からないけれど、以前の作品との差なのかと思いました。