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5歳で母を亡くし、戦争を経験、24歳のとき夫婦でブラジルへ…『魔女の宅急便』作者の“カラフルな半生”

宮川麻里奈(映画監督)――クローズアップ

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「いつお会いしても愉快(愉しくて快い)で、頭の回転が速くて、おしゃれで、自然体。それが角野さんなんです」

 そう語るのは、NHKの宮川麻里奈プロデューサー。このたび、『カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~』で映画監督デビューを飾る。学生時代には年間200本以上の映画を観るほどの映画狂(シネフィル)だったという宮川さん。しかし、自分が監督をやるとは夢にも思っていなかった。

「不安になって女性を主人公にしたドキュメンタリー映画を片っ端から観まくったんです。その結果、角野さんはこんなに圧倒的にチャーミングなんだから、誰がどう撮ったって魅力的な映画になるに決まっている! と気付きました(笑)。だから気負うのも、余計な小細工も一切やめて、私たちスタッフとのやり取りも含め、角野さんの周りの空気感が伝わるように素直に作ろう、そうすれば“人間・角野栄子”が浮かび上ってくるはずと考えました。この映画は、私たちから角野さんへのラブレターといえるかもしれません」

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宮川麻里奈監督

 もともとは、同名のテレビ番組シリーズ。『魔女の宅急便』で知られる児童文学作家の角野栄子さんに密着し、その暮らしぶりを伝える番組として4年前にスタート(現在もEテレで放送中)。これに撮り下ろしの新エピソードをふんだんに加えて映画化した。

 角野さんは、1935年東京・深川生まれ。5歳で母を亡くし、戦争を経験。24歳の時、夫婦でブラジルへ渡り、2年間滞在。育児中だった35歳のとき、ブラジル時代の経験をもとに書いた作品で作家デビュー。以来、260冊を超える作品を世に送り出してきた。トレードマークはきれいな白髪に個性的な眼鏡、カラフルなワンピース。自宅のある鎌倉で、〈自分にとって気持ちのいい〉ものに囲まれて暮らす。本作では、そんな角野さんの半生と現在の姿が、明るく美しい色調で綴られる。

「映画化にあたって困ったのは、角野さんの名言が多すぎることでした(笑)。作家だけあって言葉に力があるんです。いつ何を聞いても、角野さんの88年の人生が投影された豊かな言葉が返ってくる。全部入れるわけにはいかないので、その取捨選択には相当、苦しみました」と、宮川さん。特に印象深かった言葉を聞くと、「それは難問ですよ!」と言いながらも、「やっぱり、最後に聞いた『魔法ってなんだと思いますか?』への答えでしょうか。誰の胸にも響く話をしてくださっています」。

 そして注目は、角野さんと〈ルイジンニョ少年〉との再会エピソードだ。彼は角野さんのデビュー作『ルイジンニョ少年:ブラジルをたずねて』のモデルになった人物で、当時11歳。角野さんにとってはブラジル時代の恩人であり、親友でもあった。75歳になった彼に、昨年11月にオープンした魔法の文学館(江戸川区角野栄子児童文学館)をどうしても見てほしいと、日本に招待したのだ。

© KADOKAWA

「でも実は、本当に来られるか、ぎりぎりまで分からなかったんです。直前に体調を崩して大きな手術をされたという連絡があり、一時は諦めかけたことも。無事に来日できたとしても、何しろ62年ぶりの対面。果たして話が盛り上がるのか。不安や心配は尽きませんでした」

 結果としては、奇跡のように感動的な再会になった。

 ところで、宮川さんの娘も熱心な角野作品の読者だった。

「『魔女の宅急便』シリーズがなかったら、思春期のしんどい時期を乗り切れなかったかも、と。私も繰り返し読みましたが、ジブリアニメでもおなじみの主人公キキの成長だけでなく、死や喪失、老いといったテーマも織り込まれた普遍的な名作。本作で角野さんという人に魅了されたら、ぜひ作品を手に取ってほしいと願っています」

みやがわまりな/1970年徳島県生まれ。93年、NHK番組制作局に入局。金沢放送局を経て、『爆笑問題のニッポンの教養』『探検バクモン』などを担当。2013年、『SWITCHインタビュー達人達』立ち上げ。現在は『所さん!事件ですよ』『カールさんとティーナさんの古民家村だより』などのプロデューサーを務める。

INFORMATION

映画『カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~』
1月26日(金)より角川シネマ有楽町ほか全国公開
https://movies.kadokawa.co.jp/majo_kadono/

5歳で母を亡くし、戦争を経験、24歳のとき夫婦でブラジルへ…『魔女の宅急便』作者の“カラフルな半生”

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