「そのためにどんな記事を書くべきか考えています。例えばゾーニング(クマの生息域と人の生活圏を厳格に区切る)の概念にしても、だいぶ認知されつつあるとは思うんですけど、現状はまだ理想論でしかなくて、実効性を伴ってないんですよね。どうやってこれに実効性を持たせるか、市民も行政と一緒に考えないといけないし、我々はその手助けとなるような記事を書かないといけない。どうしたらクマの市街地への侵入を減らせるのか。これは今後北海道だけでなく日本全体においても、大きなテーマになってくると思います」
道新に掲載される「クマ担」の記事には、必ず「ヒグマ危機(クライシス)」というロゴが入るのだが、2023年ほどこの言葉が当てはまる年は過去になかった。
環境省が公表している令和5年度のクマ類による人身被害は、12月1日時点で193件に達している。被害者数でいえば212人、うち6人が死亡しており、いずれも統計史上最悪の数字となっている。
このままでは確実に「負ける」
人間社会とクマの生息域との境界が大きく揺さぶられている今、従来の対応では早晩限界が来るのでは、と岩崎は語る。
「人間とクマとの距離感が変わってくる中で“人間って全く怖くない生き物だな”ということを学習してしまっているクマも札幌近郊にはある程度いるんじゃないかと思ってます。だからクマを敵視するわけじゃないですけど、人間側も“ここ(人間の生活圏)には来るな”という強いメッセージを出さないといけない。有害駆除にしても、今までのハンターに基本的に丸投げというスタイルでいいのか。ガバメントハンター(公務員ハンター)という言葉がありますが、もう少し公的な形で現場対応できる人をどこの地域でも手厚く置けるような体制づくりを、国レベルで議論すべき段階に来ていると思うんです」
そして岩崎はこう続けた。
「今のままでは、この先10年、20年、30年後には確実に人間側は負けてしまうと思います」
人間側は負ける……終始慎重に言葉を選んでいた岩崎が強い言葉を使ったことに私は衝撃を受けた。現段階で目に見えている最悪の事態を少しでも回避するために「クマ担」記者は、人間とクマとの軋轢の最前線で書き続ける。
だからこそ、その言葉は重く響く。
写真=松本輝一/文藝春秋