ロッキード事件当時の日本と、今の日本は似ている
真山さんはさらに、令和の日本とロッキード事件当時の日本には他にもさまざまな共通点があり、それも本を手に取る理由のひとつではないか、と言葉を継いだ。
「田中政権時代、日本はオイルショックもあって物価高に苦しんでいました。そんな中、角栄さんの強固な集金システムが立花隆さんの『田中角栄研究』(『文藝春秋』1974年10月号掲載)で明らかになったことで、世論が角栄憎しの大合唱となり、ロッキード事件へと至るわけです。
そして、今、令和6年の日本はどうかといえば、ウクライナ問題をはじめ世界情勢の不安定さが主因でエネルギーが高騰し、物価高が続いている。一方株価は上昇、富は大企業など一部に集中していて国民には不満が溜まっている。政権の支持率はジリ貧です。『世論』も当時ほどではないが、SNSを中心に批判の声が強まっています。
ちなみに私はロッキード事件について、世論が非常に大きな役割を果たしたのではないか、と思っています。事件時の検察・裁判の捜査や判断に世論がどのように作用したのかについても、この本で検証を加えています」
日米関係については、似ている、というよりは、変わっていない、と分析する。
「ロッキード事件は日本とアメリカのいびつな力関係の中で起きた事件ともいえますが、その片務的な構造は本質的にまったく変わっていません。
先日ある月刊誌が田中角栄特集を組むとのことで、取材を受けました。『ロッキード事件はアメリカの陰謀で、角栄はアメリカを無視して中東での石油外交を推し進めたから、キッシンジャー元国務長官が角栄をつぶしたのだ』という説について聞かれましたが、こう答えました。
『日本がアメリカと対等だと思うからそんな説が出てくる。当時のアメリカにとって日本は対等な国ではなく、日本の元総理は大した存在ではない。だから、角栄さんを潰すことに意味はなかったはずだ』
そういう一方的な主従関係は、いまも続いています。
興味深いと思うのは、角栄特集を組む雑誌があるように、日本ではなぜか5、6年に一度『角栄ブーム』が来ますよね。おそらくそれは、日本人の中に根強くある『強いリーダー待望論』が影響しているのだと思います。安倍晋三さんが長らく支持されたのも、強いリーダーという側面を持っていたからでしょう。その安倍さんが亡くなって、岸田政権は、この体たらく。強いリーダーとしての角栄さんに改めて光が当たっているのかもしれません」