2024年が明けたばかりの1月4日に写真家の篠山紀信が死去したのを受け、その生前に撮影してもらった経験を持つ俳優などからあいついで追悼のコメントが出された。真矢ミキもその一人である。

 真矢は1月6日付のインスタグラムへの投稿で、1997年に『Guy』という写真集をベトナムで撮ったときのことを振り返り、篠山が何か思いつくと移動中でもその場で撮影が始まったという思い出から、《いつだって無茶振りでしたが、/凄いものを撮るんだという篠山さんの情熱と天才的な瞬発力に/ただただ圧倒され私も没頭していきました》とつづった。

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 真矢は当時、宝塚歌劇団の花組の男役トップスターであった。写真集を出すきっかけは、ある雑誌で宝塚の各組のトップ4人で篠山に写真を撮ってもらったことだ。これが好評で、真矢のファンの集いでも「いつか篠山先生に写真集を撮ってもらえたらいいですね」などと盛り上がったため、彼女がとりあえず劇団側にも言っておこうと担当のプロデューサーに伝えたところ、話がトントン拍子で進んでしまったらしい。

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撮影にはいくつもの制限が

 篠山に言わせると、写真集の撮影を依頼されたときは何とかして断ろうと、ベトナムで撮りたいなどとわざと無理難題を言ったのに、それが通ってしまったため、あとに退けなくなったという。撮影を断ろうとしたのは、宝塚には「すみれコード」と呼ばれる厳しい規制があるからだ。先の雑誌での撮影でも、胸の膨らみがわかってはいけないとか、スカートを穿いたらだめだとか、男役スターの女らしさが出てしまうことは一切NGとされた。

真矢みき写真集 『Guy』(宝塚歌劇団出版)では、後ろ姿とはいえ上半身裸で撮ったカットもあったため、劇団側にかなり怒られたというエピソードも

 写真集を引き受けた篠山は、規制を逆手にとることにした。男役の真矢を女として撮ってはいけないのであれば、いっそ彼女をもともと男であると考えて、その男が女装するということにすればいいんじゃないかと考えたのだ。ここから、伊達男が惚れたチンピラをたぶらかすために女装して近づく……といったストーリーを組み立てていき、絵コンテまで描いた。そんなことは彼にも初めてだった。

 篠山は、写真集で自分の好きなようにやらせてもらったので、宝塚ファンから反発されるのではないかと思っていたという。しかし、出版後に真矢の公演に行くとファンから感謝され、宝塚サイドからも喜ばれたと、著書に書いている(『写真は戦争だ! 現場からの戦況報告』フォトプラネット、1998年)。もっとも、真矢がのちに語ったところでは、後ろ姿とはいえ上半身裸で撮ったカットもあったため、劇団側にはかなり怒られたらしい(『週刊文春』2010年11月25日号)。