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 記者が訪れた1月27日、このキッチンカーを担当していたのは、田井太也(たい・たかなり)さん(30)。この日のメニューは「ハヤシライス」だ。

「ここは毎日の炊き出しと同じメニューです。他県から来てくれている自治体の職員やインフラ関係の方、メディアの方、被災者以外の全ての人にお出ししています」

この日のメニューのハヤシライス ©文藝春秋

 炊き出し班のメンバーは、池端シェフをはじめ、全員が自宅や自分の店が倒壊するなどした被災者。田井さんもその一人だ。

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「本業は漁師です。休漁中は、大好きな日本酒の酒蔵で杜氏をしていました。輪島の海は陸が隆起して船が出せず、酒蔵も被災して大きなダメージを受けました」

「地震当日は車中泊をして…」

 住んでいた古民家は地震で倒壊。妻は京都に里帰り中で、所用があって輪島に残っていた田井さんも外にいたため無事だった。だが、気がかりなのは、自宅で飼っていた2匹の猫たち。茶トラでお腹の白い8カ月のオス猫の「むぎ」と、白三毛で7カ月のメス猫の「まんぷく」だ。猫風邪で目が開いていない子猫を妻が見つけて保護したのがむぎ、里親を通じて田井家にやってきたのがまんぷくだった。

「むぎ」と「まんぷく」(田井太也さん提供)

「地震当日は車中泊をして、翌日に自宅前に行き、名前を呼び続けていたら、むぎが近くから出てきました。まんぷくはなかなか見つからなかったんですが、8日になって、仲のいい友人が設置してくれた捕獲用の猫ケージに入っていたと。2匹とも助かって、本当に嬉しかった」