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《ラーメンのナゾを追え》うすくち醬油の本場は関西なのに、なぜ福島県の喜多方ラーメンのベースは“うすくち”なのか?

《ラーメンのナゾを追え》うすくち醬油の本場は関西なのに、なぜ福島県の喜多方ラーメンのベースは“うすくち”なのか?

日本一に輝いた福島醤油#3

2024/02/07

genre : ライフ, 社会

note

 うすくち醤油は、関西が本場だ。ところが、2023年の全国醤油品評会(日本醤油協会主催)で入賞した9点のうすくち醤油のうち3点が福島県産と都道府県別では最多だった。東日本、特に関東以北はこいくち醤油が主流のはずだ。東北ではうすくち醤油など全く使わない家庭も多い。

 なのに、なぜ――。それは、全国有数の暑さで知られる「福島の夏」を克服しようと工夫を重ねた結果だった。そうした珠玉の醤油は家庭用としてよりも、業務用に使われており、喜多方ラーメンのスープもうすくち醤油がベースだ。醤油の美味しさが、喜多方ラーメンの味を洗練させてきたと言えるだろう。

「初めて白河の関を越えた」6年ぶりの快挙が話題に

 全国醤油品評会では三つの賞が選ばれる。上位から農林水産大臣賞、農林水産大臣官房長賞、優秀賞だ。

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 2023年の品評会では、計9点のうすくち醤油が入賞した(大臣官房長賞1点、優秀賞8点)。そのうち優秀賞の3点は福島県産で、山形屋商店(相馬市)、福島県醤油醸造協同組合(二本松市)、高砂屋商店(会津坂下町)の出品だった。他の6点の入賞は、大臣官房長賞が大阪から1点、優秀賞には群馬、愛知、岡山、熊本、大分から1点ずつで、福島の実力が際立っていた。

高砂屋商店は2016年の全国醤油品評会で大臣賞を受賞しており、2023年に優秀賞に選ばれた2本と一緒にセットで売られていた(福島県会津坂下町) ©葉上太郎

 前年の2022年の品評会でも山形屋商店のうすくち醤油は最高賞の大臣賞に選ばれている。

 しかも、うすくち醤油が大臣賞を受賞したのは、2016年の「ヒガシマル醤油」以来6年ぶりという快挙だった。ヒガシマル醤油はうすくち醤油発祥の地とされる兵庫県たつの市を代表する大手メーカーで、ある意味では当然の受賞と言える。だが、山形屋商店は小さな家族経営の蔵でしかなかった。そればかりか、東北・北海道の蔵がうすくち醤油で大臣賞に選ばれたのは史上初だった。同年夏の全国高校野球選手権大会では、仙台育英高(宮城県)が東北勢として初優勝し、「甲子園の優勝旗とうすくち醤油の大臣賞が初めて白河の関を越えた」と話題になった。

 これほどの実績があるのだから、「福島県は『うすくち醤油王国』に違いない」と思われるかもしれない。

認知度は低いのになぜ受賞回数は多いのか

 しかし、山形屋商店の5代目店主、渡辺和夫さん(54)は「福島は何にでもこいくち醤油をかける土地柄です。こいくち一本で味付けする家庭が多く、煮物は真っ黒になります。山形屋商店のうすくち醤油も、料亭などの求めに応じて年に2回しか製造していませんでした」と明かす。

 福島県は『こいくち醤油王国』なのである。

 同県醤油醸造協同組合の紅林孝幸さん(53)も「福島のうすくち醤油はラーメン店や、煮物を真っ黒にしたくない料理店など、主に業務用で使用されています。一般家庭ではあまり使われないので、福島県内での認知度は低いのが実情です」と話す。

 それなのに、これほどの数が入賞するとはどういうことなのか。

 直近の品評会だけではない。紅林さんが工場長を務める福島県醤油醸造協同組合の醤油工場は、計6回もうすくち醤油で入賞しており、全国トップレベルの受賞回数なのだ。