「脱脂加工大豆は丸大豆をフレークして油を取り除くのですが、その過程で加熱処理を行います。これが影響するのか、醤油にした時の色づきが早いのです。また、油分があると生揚げの酸化を遅らせると言われていて、丸大豆を使用した方が色づきを抑えられました」。紅林さんが解説する。
丸大豆で生揚げを醸造すると、確かに違った。色づきの早い脱脂加工大豆よりじっくり発酵させるだけの余裕も生まれた。結果として「すっきりとした色で伸びのある香り」(紅林さん)が得られた。
「やっぱり関西に学ぶべきだなと思いました。本場の技術で東北の品質を上げる。ロマンを感じました」と話す。
様々な工夫をしてどんどん品質が向上
ただ、原料の変更は製品に大きな影響を与える。紅林さんの一存で行うわけにはいかなかった。当時70軒近くあった醤油蔵(現在は58蔵)に許可をもらう必要があり、うすくち醤油を造っていた十数軒には何度も足を運んで説明した。
「反対もありました。醤油は黒くなるものだとも言われました。ただ、任せるから責任を持ってやってもらいたいと後押ししてくれる人もいました」。なんとか了解をもらい、丸大豆を使ったうすくち醤油造りが始まった。
紅林さんは「腕試しに」と、組合で火入れをしたうすくち醤油を全国醤油品評会に出した。組合の工場では生揚げの醸造だけでなく、一部は自前で火入れをして製品にしていたのである。
すると2008年に優秀賞に入った。
「やり方は間違っていなかったんだなと自信を深めました」
以後、2023年まで6回も入賞を重ねる。
その間、組合工場で醸造する生揚げの品質はどんどん上がった。丸大豆の使用以外にも、様々な工夫をしたのだ。機器などの洗浄も徹底した。生揚げは微生物による発酵でできるので、雑菌の作用や、他の香りが移るのを避けなければならない。「うすくち醤油は発酵が弱い分、こいくちのようにごまかしがきかないのです」と紅林さんは語る。
各蔵の技術も上がった。東日本大震災や原発事故による風評被害で追い詰められた蔵が集まって始めた勉強会の成果が徐々に出ていった。
これらの相乗効果で、うすくち醤油の入賞点数が全国最多になったのである。
会津では汁物にうすくち醤油を使用
うすくち醤油を造っている蔵は、福島県でも会津地方に多い。主に旧会津藩のエリアである。
興味深いことに、家庭料理はこいくち醤油一辺倒の福島県でも、会津にはうすくち醤油を使った郷土料理がある。会津はうすくちとこいくちの両刀遣いなのである。
2023年の全国醤油品評会で福島県のうすくち醤油は3点が入賞したが、そのうちの1点は会津にある高砂屋商店の製品だった。どんな料理に使われているか、社長の桑原勇さん(54)に聞いた。
「汁物の郷土料理に使われています。会津と言えば『こづゆ』が有名で、うすくち醤油をベースにした代表例です」