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 こづゆは、ホタテの干し貝柱でだしを取り、薄味に仕立てた具だくさんの吸い物だ。うすくち醤油だからこそ、だしが生きる。

「こづゆに似た『ざくざく』という汁物にも、うすくち醤油が使われます。これは会津から県中エリア(中通り)まで食べられています」と桑原さんが語る。

「『つゆもち』と呼ばれる雑煮もあります。つきたての餅を千切り、つゆに入れて食べるのです」

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喜多方ラーメンはだしをしっかり取る会津料理と似ている

 これらの郷土料理には、会津の地理や歴史が関係しているようだ。

「四方を山に囲まれた会津には海産物がありません。このため北前船で新潟に運ばれた貝柱や昆布などの乾物や塩蔵品が、川づたいに会津に持ち込まれました。こづゆに貝柱をたっぷり入れるのはこのためですし、ざくざくにも昆布を入れます」。だしの美味しさを引き立てる醤油は、こいくちではなく、うすくちなのである。

 喜多方ラーメンは、その延長線上にある。

「極めてバラエティに富んでいる喜多方ラーメンですが、各店には王道のラーメンがあって、うすくち醤油をベースにした透明感のあるスープが共通しています」と桑原さんが話す。

高砂屋商店のうすくち醤油を使った喜多方ラーメン。だしの味わいが深く、醤油ベースのスープが基本 ©葉上太郎

 福島県醤油醸造協同組合の紅林さんも「喜多方ラーメンはしっかり取っただしの香りや美味しさが魅力です。これを生かすにはうすくち醤油でなければなりません。喜多方ラーメンにはうすくち醤油が欠かせないのです」と力説する。

 こづゆ、ざくざく、つゆもちといった、だしをしっかり取る会津料理と似ている。

地元で愛され、必要不可欠の存在となった醤油

 では、高砂屋商店のうすくちとはどんな醤油なのか。喜多方のラーメン店ではかなり使われていて、桑原さんは「インターネットのグルメサイトのランキングに載っている店の半数ほどに納めています」と言う。

 味を確立したのは桑原さんの父だ。

「東京農大で醸造学を学んだ父は、うすくち醤油を充実させようと考え、ラーメン店の意見を取り入れながら味を変えていきました。そのため色が薄いのに、味はしっかりしていて、ラーメンに合ったうすくち醤油になっていきました。多くの有名店で使われているのは、そうした店がまだ駆け出しだったり、人気の出始めだったりした頃、営業に回った父が店主の声をしっかりと聞き、少しでも要望に近い醤油に仕上げるよう努力したからでした。喜多方ラーメンには欠かせない醤油になった理由だと思います」

 似た話を思い出した。

 2023年に大臣賞を受賞した山形屋商店のこいくち醤油「別上(べつじょう)」も、相馬市の漁師ら港町の人々の声を聞きながら味を変えてきた(2に詳述)。

 人々に寄り添った醤油だからこそ、地元で愛され、その土地の料理に不可欠になったのだろう。

 全国醤油品評会で入賞点数が日本一になった福島県。

 美味しさの原動力は「地域の声」だった。