自衛隊の災害派遣の基本方針は「国土防衛にあたっての人員や装備を転用する」というものだ。23年3月の時点で、自衛官の定員は約24万7000人だが、実際の現員は23万人程度にとどまっている。定員に対する現員の割合(充足率)は92%程度だ。陸上自衛隊の場合、冷戦時代にソ連の脅威に対抗して北海道を中心に編成していた部隊を、中国の脅威増大に伴い、南西方面に重点的に展開する作業に追われている。
また、これまで財政上の理由から防衛予算の増加が抑制され、財政当局からは陸上自衛隊の部隊縮小・駐屯地の統廃合や自衛官の現員削減などが求められてきた。「なぜ、能登半島に自衛隊をもっと置いておかなかったのか」という指摘はあたらないだろう。
ヘリコプターを使うべきだった?
また、「陸上からの接近が困難なら、ヘリコプターを使うべきだった」という声もある。山下氏は「平野部に隣接した山間地に対する災害派遣だった熊本地震とは、状況が異なります。今回はヘリポートの数も制限されていました。学校の校庭に降りれば良いではないか、という意見もありましたが、被災地に近い場所なのか、災害派遣の拠点地にできるのかなどを検討する必要があります。降りられるから良い、というものではないのです。投入した部隊が孤立しては元も子もありません」と話す。
それでは、なぜ、ここまで自衛隊の災害派遣が問題視されることになったのか。1月24日に行われた参議院予算委員会では、自衛隊派遣の遅れや派遣規模が少数にとどまったことについて、人災の要素があるという指摘が出た。発災直後から、記者団から、自衛隊の派遣規模を尋ねる質問が繰り返された。
防衛省は2日には、陸海空自衛隊による統合任務部隊を編成し、最大1万人規模の態勢をとることを決めた。山下氏は「人命救助を急げという指摘は理解できますが、数だけを問題視するのは短絡的すぎると思います。政治家も批判を避けるため、安易に派遣の人数を約束したり、公言したりするのは控えるべきです」と語る。