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「発災後72時間」の重要性

 もちろん、自衛隊も人命救助のタイムリミットとされる「発災後72時間」の重要性は理解している。自衛隊の各駐屯地には、エアカッターや斧、ジャッキ、チェーンソーなどの「災害派遣人命救助セット」が備え付けられている。時間単位で出場できるファスト・フォース(初動対応部隊)が24時間365日の体制で準備している。

 まず、ファスト・フォースを送り出し、その間に非常呼集をかけて、他の隊員たちを部隊に戻して準備する。ファスト・フォースは通常、2~3日分の食料しか携行していないため、数日後には派遣隊員を入れ替える必要があるからだ。最初の派遣規模は、こうしたファスト・フォースを中心にした部隊だった。

火災で多くの建物が焼失した観光名所「朝市通り」付近で、がれきを一つずつ確認して積み上げていく自衛隊員 ©時事通信社

 発災から72時間が人命救助の重要な段階になる。自治体などからの情報提供や自衛隊の偵察活動により救助が必要な地域を特定し、必要な部隊を迅速に逐次投入していくのが災害派遣の鉄則だ。大規模な被害地域には、ある程度大きな部隊を投入する。この場合には自己完結性を担保するために、補給部隊や展開地などの基盤を考慮する必要があるという。

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能登半島は「自衛隊の空白地」

 また、実際に隊員の派遣も困難を極めた。山下氏は陸自中部方面総監時代、ヘリコプターで上空から能登半島を視察した経験がある。「能登半島は、山地に小規模な集落が点在しています。集落には、半島を囲むように伸びる海岸線沿いの道路からアクセスする必要があります。ただ、隆起した山地が海岸線まで迫っていますから、今回のように海岸線沿いの道路が寸断されると、大多数の集落は簡単に孤立してしまいます」(山下氏)。実際、今回の震災では徒歩でしかアクセスできない事態も発生している。

 熊本地震の際は、近傍に陸自の駐屯地などがあった。だが、能登半島は輪島市に空自のレーダーサイトがあるだけで、「自衛隊の空白地」とされる。一番近い部隊は、金沢市の第14普通科連隊だが、やはり能登半島の海岸線沿いの道路が寸断されたため、すぐに接近できなかった。