発災から1カ月以上が経った能登半島地震だが、被災した人々の避難生活は続き、現地の復旧作業もはかどらない状況が続いている。国会では政府の対応の拙さを批判する声が上がり、その矛先の一つは自衛隊に向けられている。「過去の震災と比べて投入した人数が少ない」、「隊員を小出しにする逐次投入だ」といった批判だ。かつて能登半島を含む陸上自衛隊中部方面隊の総監を務めた山下裕貴・千葉科学大客員教授(元陸将)は「自衛隊だけではなく、政府全体で考える問題だ」と指摘する。

逐次投入の是非

 元日に発災した能登半島地震に対し、自衛隊は翌2日に約1000人、3日に約2000人が現場で活動し14日から15日にかけて、最大規模の約7000人にまで増やした。この流れが、発災3日目には約1万4000人の自衛隊員が派遣された熊本地震(2016年)などと比較され、「逐次投入」だという批判を招いた。

被災地で救助活動する自衛隊員(防衛省統合幕僚監部提供)©時事通信社

 山下氏は「逐次投入がまるで悪い言葉のように使われていますが、戦場でも逐次投入は立派な戦い方の一つとして位置付けられています。それは敵味方ともに前進中に遭遇して生起する浮動状況での遭遇戦です」と語る。戦場で敵の状況がはっきりわからない態勢で遭遇した場合、味方の部隊を到着順に次々と戦場に投入して、戦況を有利に導く戦術だ。山下氏は「能登半島地震の場合、まさに発災直後は被害状況がはっきりしておらず、遭遇戦と同じ状況にありました」と指摘する。

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 自衛隊の場合、活動を起こす最初のアプローチとして、地上では小型車両やオフロードバイクなど、上空からはヘリコプターなどを使って戦場や被災地の情報を収集する。この情報収集活動によって、火災や津波の発生状況や土砂崩れ、住宅の被害などを把握することはできる。ただ、目視するだけでは、住民がどのような被害に遭っているのか、何人くらい住んでいるのか、自力で逃げられない人がどのくらいいるのかは、わからない。

 山下氏によれば、こうした発災直後の情報の把握は、地元自治体や警察・消防の役割になる。山下氏は「市町村や県、あるいは警察などから情報をもらわないと、自衛隊は情報収集や十分な派遣準備ができません」と語る。