山下氏によれば、2018年の北海道胆振東部地震では、政府が自衛隊の派遣規模にこだわり過ぎたため、現場に隊員があふれた。当時、「一つのたこつぼ(1人用の塹壕)に10人も入れということか」という冗談が隊員の間で広がったという。山下氏は「派遣人員数とは、必要な場所に必要な人員を投入した結果で導き出されるものです。最初から投入員数を決めるのは、根拠のない数を示しているということです」と話す。
災害が起きるたびに「これまでの教訓を生かしていない」という指摘が出るが、被害の特徴は全て異なるため、簡単に比較はできないだろう。
カメラの外で起きていること
山下氏は「テレビやネットで流れる映像や情報だけで、簡単に批評することは避けるべきです。画面に映った災害現場や避難所に自衛隊の姿が見えないからといって、『自衛隊は何をやっているんだ』と判断するのは早計です」と語る。カメラが入れないような場所で復旧活動に従事しているかもしれない、という意味だ。
山下氏は「かつてのベトナム戦争では、米国市民がテレビで流れる映像にショックを受け、反戦運動が広がり、米国は戦争を続けられなくなりました。また、議員が作戦に容喙(くちばしを挟む)し、現地部隊が混乱を起こす原因にもなったと言われています。当時の戦争継続の是非は別として、マスコミが発表する一面的な情報だけで全体を判断するのは避けた方が良いと思います」と語る。
衣食住をすべて自己完結できる自衛隊は、頼りになる存在であることは間違いない。山下氏も「自衛隊の演習は、災害派遣とは比べものにならないくらい厳しいものがあります。防御演習では、1週間ほど、塹壕などの陣地に入ったままで、対抗部隊の攻撃を防ぐ訓練をします。警察や消防に比べ、災害派遣が長期にわたっても耐えられる体力と精神力を備えているのは、このような厳しい訓練を行っているからです」と語る。
1月中旬から、被災地の中学生らが石川県南部などに避難する「2次避難」が始まった。専門家の間からは、被災者を安全な後方地域に移した後、災害復旧活動に全力を挙げる方策などを提案する声も出ている。
災害の態様は千差万別だから、簡単に対応の是非を判断できない。ましてや、批判の矛先を自衛隊に絞って向けても、生産的な議論は得られない。今は、被災者の生活の安定と、復旧作業にめどをつけることに全力を挙げる時だろう。