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全読者が楽しめる、まさに「本物のエンターテインメント」

 長くなってしまったが、『化学の授業をはじめます。』のエリザベスというキャラクターがエレン・スワロウ・リチャーズを大いに参考にして形成されたのは間違いないだろう。そしてエリザベスの言動や彼女の巻き起こしたセンセーションが一見、荒唐無稽と思われても、実在のエレンのそれに比べればこれでまだまだ控えめなのである。

 この作品は著者にとってデビュー作だという。しかしとてもそうとは思えないほどこの小説の造りはしっかりしている。すごく複雑に入り組んでいるのに、主人公にも各エピソードにも変な揺らぎや「とってつけた感」がなく、著者の自信と確信が全編にみなぎっている。それはなぜかといえば、もちろん第一には著者の作家としての才能に帰するはずだが、もう一つは歴史的事実に大きく支えられているからではないか。エレンを筆頭とする女性科学者たちの苦闘と輝きがエリザベスに反映されている。そうとしか思えない──。

 とは言うものの、読者のみなさん、ご安心を。以上のような知識はこの小説を読むには全く必要ない。何も考えずにページを開いていただいてかまわない。なぜなら本書は本物のエンターテインメントであり、本物のエンターテインメントはどんな人がどんなふうに読んでも面白いものだからだ。

化学の授業をはじめます。

化学の授業をはじめます。

ボニー・ガルマス ,鈴木 美朋

文藝春秋

2024年1月16日 発売