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前田敦子に対して「いったい何歳なんだ」

三島 それはお話ししていなかったですね。

 まず、この作品は自主制作というところからスタートしましたので、志を同じくしてくれる人でなければならなかった。前田さんは出演された作品、メイキング、インタビューや舞台挨拶を見ても、本当に映画と映画を作る人を愛している人だ、だから同じ志を持っていただけるという揺るぎない確信があったんです。

 そして「れいこ」という主人公は、性暴力の被害者ではあるけれど、はかなげな人ではなく、とにかくたくましい人に演じてもらいたかった。これは前田敦子さんしかいないなと思いました。実際、たくましかったですね(笑)。

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前田 ほんとですか。

三島 人は誰もが生命存在として美しいと思うんですが、それが前面に出ていて、かつそれが映像に映る人って揺るぎないたくましさを持っていると思うんです。前田さんはいったい何歳なんだと思うほどたくましかった。

前田 32歳ですよ(笑)。

三島 いやいや、戦争を経験しているんじゃないのかなと思うことが何回もありましたよ。私の亡き父は召集されて軍隊に入った世代です。1945年の夏、焼け野原となった故郷の大阪に復員したとき、「人々に生きたいと思わせたい、と思った」といいます。前田さんも焼け野原に仁王立ちで立ってたんちゃうかな(笑)。

前田 うれしいです。そんなふうに見ていただいていたとは。

三島 本読みのとき、私はそこで仕上げようとは考えていません。みんなでさらっと読んで、どういう映画を目指すかを各々が考えてくれる場だと思っているんですが、ただ一つ、私も含めてスタッフが完成後の景色を確信したことがありました。

 れいこが口ずさむ『きになる』(作詞・作曲:早瀬直久)を本読みで初めて前田さんが歌ってくれたときに、「ああ、きっといい映画になる」とみんなが信じられたんです。

前田 そんな裏話があったんですね、初めて聞きました。うれしい!

三島 映画館のポレポレのカフェで脚本を執筆中に偶然、奇妙礼太郎さんが歌うこの曲が流れるのを聴いて、劇中歌として使わせてもらったんですが、「誰かの前で種明かす日が来るよ」とか「気になる人に花を贈ればいいよ」とか、れいこが前を向いて歩き出せそうな、いい歌詞ですよね。

前田 素晴らしい偶然があったんですね。

三島 この映画が生まれたのもある偶然からで、『IMPERIAL大阪堂島出入橋』という短編のロケハンの際、6歳のあの日以来一度も行ったことがなかった犯行現場の駐車場をたまたま目にしてしまった。思わず「あっ!」と声に出すと、一緒にいたプロデューサーに「どうしましたん?」と言われました。

「あそこが現場や」と、私は自然に事件の一部始終を話していた。今ならこのテーマに向かい合えるかもしれないと思い、脚本を書き始めました。