「鶴の恩返しホーム輪島」で生活していた認知症の高齢者と職員は、近くの公民館に避難していた。避難時には、消防団が担いで避難所まで往復したという。しかし断水などで医療体制が整わず、体調悪化の恐れがあったため小松市のグループホームへ移動することになったという。
「この地域に今残っている住民はほとんどいませんが、私たち夫婦2人は残る選択をしました。まだインフラが整っていませんし、水も通っていないんですが、地域に誰もいないと治安的に物騒ですからね。財産を置いて避難していて、不安に思う人もいると思って。それで防犯カメラも警察につけてもらいました」
「もうこの地域を出ようと考えてしまう人もいますよね」
高台に作られた仮設住宅への申し込みは始まっていて、住民が南志見地区に戻ってくる可能性は高い。地元紙の北國新聞が避難者225人にとったアンケートでは、「自宅または自宅のあった場所に再び住みたいか」の問いに、67%が「住みたい」と回答している。とはいえ、もともと高齢化率が高い地域で、復興の方針はなかなか決まっていない。
「大事なのはインフラの整備です。国土交通省の管轄ですので、なかなかこちらの思う通りにはならないんです。この地域は10くらいの町があるんですが、そこへ通じる水が通らない。市の土木担当の部署と話しながら、順次、過疎にならないように整備をしています。道路は、以前から決壊しているところがあるので何年もかかると思うんですよ」
住民がどのくらい戻ってくるかで、まちづくりの規模も復興方針も変わってくるが、まだ見通しは立っていないという。
「もうこの地域を出ようと考えてしまう人もいますよね。もちろん強制はできませんし。仮設住宅ができたときに、それをどう思うのか、というのが1つの判断ポイントだと思います。南志見に戻って落ち着いて生活ができるのか、それとも避難先で仕事を見つけてそちらに住むということもある。でも金沢の避難所で聞くと『とにかく早く帰りたい』という意見がほとんどでした。いち早く、帰りたいという人が帰りやすい体制づくりをしたいですね」
地震直後のような、交通や通信が途絶して孤立した地域は現在はなくなっている。それでも、不便や不安と戦いながらの生活はまだ終わりそうにない。