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耳栓と平和:心労回避のための刺激制限環境の構築

 ここまで心労をめぐる人間系の経営を中心にみてきた。

 しかし心労の原因には非人間系のものも存在する。たとえば感受性が豊かな人は、音、光、匂い、味、触感といった五感のセンサーも優れすぎているとされる。

 そのためそうした人たちは、一時間に一回ほどマンションの外を通る車の移動音で起きてしまったり、カーテンの隙間から漏れるわずかな月光が気になって眠れなくなったりする。そのうちに「このまま眠れないのでは」と頭が冴えてきて本当に眠れなくなる。

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 現代の仕事は頭と神経は疲れるのに身体は疲れないものが多い。そのためなおさら眠気が起きない。早朝になって、今から寝て仕事に遅刻したらまずい、と、一睡もせず始発で職場や学校に向かったりすることも頻繁である。

 ときにはこうした刺激に我慢できなくなり、外を走る車や月に吠えたくなるが、ご近所で「狼人間か、それとも萩原朔太郎か」と噂されたら困るな、と思いとどまるのがオチだ。

 音、光、匂い、味、触感といった刺激の原因に対して気をもんでも今度はそれが人間系由来の心労に発展するだけである。そのため非人間系の心労に対しては「刺激が抑えられる環境を創造する」という解決方法をとる必要がある。

 かくいう私も(このことを誰も信じてくれないことが一番の心労の種なのだが)繊細さんタイプの人間であり、就寝時は耳栓とアイマスクを着用した上で、自分で自分をふわふわタオルケットにグルグル巻きにするという「赤ん坊おくるみ中年スタイル」を取っている。

 その上ですべての窓に遮光シートを張り、遮光カーテンを二重で使用して意図的に暗室を作り出すという、さながら渋谷マンション内違法植物栽培所状態だ。こうした「赤ん坊おくるみ違法植物ダメ絶対暗室創造的な方法」は匂いや味に対しても利用できる。

 たとえば電車などの密室ではマスクを着用したり、お気に入りの匂いがついたハンカチ等を持ち歩いたり、口直し用のガムを用意しておくなどである。

 もちろんこれらの例はあまりに陳腐かもしれない。だが「刺激を制限する環境という価値を創造する」という視点を持ってさえいれば、読者各位がさまざまな対策を自力で考えることができるだろう。

 普段から心労を感じている人はときには自分の心を閉ざすという疑似的な解決策に向かってしまうことがあるという。だが自分の感覚に気が付かないふりをするのは、幸せな感覚もろともシャットダウンする行為になりかねない。

 仕事も組織も人生の目的にはなりえない。人間の幸せこそがそれらの目的なのだということを忘れてはいけないだろう。

 だからこそ、心労を経営するという視点はますます重要になってきている。