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オフィスビルの飲食店が“廃れる”ワケ

2024/02/20
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一時的に空き店舗が増えているのではなく…

 現在都心にある比較的大規模なオフィスビルで築年が30年以上になるような建物の地下飲食街などを覗くと、その豹変ぶりに驚かされる。かつて活気のあった飲食店街が「歯抜け」のような状態になっているのだ。これまでであれば、閉店すれば新しい店舗に入れ替える。内装や厨房に手を入れるケースもあれば、同じようなメニューなら「居抜き」といって、前のテナントの設備仕様をほぼそのまま引き継ぐ場合もあるが、いずれにしても「Coming Soon」のお知らせが掲示されたものだ。

 ところがテナントが去った区画の多くが、シャッターを閉めたまま、あるいは元の区画内にテーブルとイス、あるいはソファをぞんざいに並べただけの「休憩室」になっているのだ。

 コロナ禍を契機に閉店し、その余波で一時的に空き店舗が増えているように考えてしまいそうになるが、どうも原因はそれだけではなさそうだ。

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写真はイメージ ©AFLO

 夜の上司や同僚たちとの飲み。これは実はコロナ前からほとんどなくなった習慣だろう。勤務終了後まで上司とつきあうことを今のミレニアル世代(1980年代前半から90年代半ば生まれ)がやるわけがない。昭和平成を会社というビレッジに身を置いてきたおじさんたちは、飲みニケーションも大事な出世術と考えていたかもしれないが、さすがにこうした価値観は廃れて久しい。したがってコロナ前からすでに、よほど人通りがあるか、ビル外から客を呼べる有名店でもなければ、オフィスビル内の夜の営業は期待できないものとなっていたといえる。

 ではランチはどうだろうか。午前中の業務が終わり、職場の上司や同僚とランチに出かける。美味しい店で仲良く会話。今でも当たり前のようにやっていそうなのだが、最近はどうも様子が異なるのだ。

 まず、孤食が一定の市民権を持ち始めた。昼休みになにも上司や同僚と同じ時間を過ごすことはない。みんなで行くと自分の好きなメニューを選べるとは限らない。昨日食べすぎたので、今日は少し軽いものをと思っても、上司の好み、あるいは同僚たちの多数決によってランチで食べるものまで決まってしまうのは嫌だ。同僚と気軽に、などというが当然気の合わない奴だっている。

 最近では健康に気を使って、食べるメニューを決めている会社員も増えた。摂取カロリーを計算し、自らが決めたメニューでなければ摂取しないとしているのだ。

 またプロテインやサプリメントだけで済ます者、ダイエット中の者、食品添加物を摂取したくない者、ビーガンやベジタリアンを標榜する者、食品アレルギーの者、世の中一筋縄ではいかなくなってきているのだ。