「お洋服は私にとって“鎧”だったんです」
「少し前まで、お洋服は私にとって“鎧”だったんです。自分ではどうにもできない『女』であることやコンプレックスだらけの肉体を、最大限に肯定して楽しむための武装。今もその感覚はゼロではないけれど、昔に比べて“私本体”がだいぶ強くなったので。もうガチガチに覆い隠さなくていい。もっと柔軟な、言わば『質感を借りる』関係になりました」
ダボっとしたスウェットを着れば、自然とリラックスモードになる。カチッとしたスーツに袖を通せば、背筋がしゃんと伸びる。「服の質感を借りることで、自分の形を変える。それが今の私にとってのファッションです」と橋本は続ける。
「今日はこの質感の自分でいたいから、それに合う服を選ぶ。好きな服を着ると精神水準が上がりますけど、気分だけじゃなく、体だって変化していきます。今回のような撮影もそうで、なめらかで着心地のいい服を纏えば、筋肉が緩んでしなやかな動きが生まれる。衣装、空間、プロップ(小道具)、そして光。私を包む全てから質感を借りて『ああ、こう動くんだ』と心身で理解する。その状態に入れると一番楽しいですし、いい写真になると思っています」
「狂おしいほど、服が好き」。そう真っ直ぐに語る橋本は、主演映画『熱のあとに』で、“愛に狂った”女性・沙苗を演じた。2019年に起きた「新宿ホスト殺人未遂事件」に着想を得た意欲作で、その鮮烈な愛の在り方は、賛否両論さまざまな波紋を広げている。
「沙苗は”愛ゆえに”ホストへ刃を向けます。私が思う愛、感じたことのある愛とは、色も形も質感もまったく違う。初めは正直『愛ではないものを愛だと勘違いしているのではないか』と沙苗を客観的な視点で裁いてしまったんです。観てくださった皆さんの中にも、私と同じように感じる人はたくさんいるでしょうし、一方で、沙苗に呼応する人もきっといる。『この作品をどう受け取ってほしいですか』という問いには答えられないんですよね。観た人がどんな人間なのかを見つめる映画でもあるので」
観客自身に熱が返ってくる、無傷ではいられない作品。全身全霊を燃やして沙苗の愛を体現した橋本自身も「過酷だった」と述懐する。