「なんだ、これは……」
3月24日、出張していた日本から韓国に帰国した会社員(50代)は、上空からPM2.5(微細粉塵)におおわれた金浦空港を見て絶句したという。
翌25日には、韓国では2015年の観測開始以来、最悪濃度のPM2.5を観測した。
春だというのに、ソウルの空は黒く淀む日が多く、ガスのような靄に包まれた街にはマスクをつけて黙々と往来する人ばかり。なかには、ガスマスクをつけた人まで登場している。
22万人が賛同した“激しい”反PM2.5の請願書
青瓦台(大統領府)のホームページにある市民が請願や提案を書き込める掲示板には3月24日、「PM2.5の危険、そして汚染および中国に対する抗議」というタイトルの抗議文が書き込まれた。
内容は、「マスコミでも中国発と報じられていますが、もっとも重要なのは政府機関が中国に対して一切話をしないことで、むしろ、中国と相互協力しPM2.5を減らそうという対策だけです。なぜ、相互協力ですか?(中略)どうか、中国へ抗議し、山東半島にある工場を閉鎖しろと言ってください(中略)中国が虚言を繰り返し、われわれはできないと言い張るならば断固として国交を断絶し、国際裁判所に訴訟を起こすべきです」と激しい。けれど、わずか数日間で賛同数が20万人を突破し(4月5日現在、226,362名)、政府の回答待ちとなっている。
老若男女、会えばPM2.5の話題で、「もう外に出るのが恐くて……。最近、お昼休みで外出する時もマスクは2枚重ねにしている」(20代後半の会社員)と不安がる人や、「こんなに空気が悪くちゃ、もうソウルには住めないわ。子供が豪州で就職したから、思い切って家族で移民しちゃおうかなんて真剣に考え始めているところ」(50代半ばの主婦)と極端なことを言う人までさまざまだ。
実際、幼い子供を持つ夫婦の中には、PM2.5の濃度が低い韓国南部に引っ越す人や週末だけ空気のよい地域に家を借りる人も出てきている。
全国紙の記者が嘆息する。
「PM2.5が取り沙汰されるようになったのはここ数年でしょうか。1988年のソウル夏季オリンピック開催前に大気汚染問題が急浮上しましたが、当時のPM2.5の数値は現在の4倍くらい。世界的に見ても、韓国の空気汚染は五本の指に入るほど汚かった。それが、環境問題が叫ばれるようになって少しずつきれいになっていっていたのが、2013年頃から再び酷くなりました。健康への認識も変わって過敏になっているところもあるかと思いますが、見過ごせない段階まで悪化していると感じている人が増えています」
韓国では、PM2.5汚染の最大の原因は、中国の大気汚染が偏西風に乗って運ばれているからだとする見方が根強い。韓国標準科学研究院が、「2月の中国の春節名物、爆竹の粉塵がPM2.5となって韓国に飛んできた」という報告書を出し、騒然となった。最悪の数値を記録した3月25日も、停滞した大気に中国から風に乗って運ばれた汚染物質と韓国内の汚染物質が重なった結果といわれている。