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中国からの大気汚染物質は全体の3~5割

 環境に詳しい記者が語る。

「ただ、非難を浴びている中国では『藍天保衛戦』を掲げて、石炭使用や排出量を極端に減らす政策をとったのが奏功して、この4年の間にPM2.5の濃度が約30%低くなったという調査結果が米シカゴ大学から出ています。先日、久しぶりに北京に行った時も、以前は靄がかかっていてよく分からなかった北京空港の姿も初めてくっきり見ることができて、正直驚きました。

 だったら、どうして韓国でのPM2.5がいまだに酷いのかという話になりますが、実際、韓国のPM2.5は、中国から西風で運ばれてくる大気汚染物質は全体の3~5割程度。残りは韓国内のディーゼル自動車の排気ガスやボイラー、発電所の焼却炉の煤煙や粉塵が原因といわれています。PM2.5が酷い日には、公共機関で使える車両を午前と午後に分けたり、駐車場を全面封鎖したり、道路に水を撒いたりしましたが、その場しのぎの対策だと政府は国民から非難を浴びました。長期的な対策が示されなければ、昔のように、よりよい暮らしを求めて、また移民する人が増えるかもしれません」

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ソウルは住みやすい街ではない? ©getty

 マスクは必須アイテムになっているが、1枚2000~5000ウォン(約200円~500円)くらいかかる。インターネットショップでは、3月23日から28日までの5日間だけで前月と比べて19倍も売上が増加したという驚きの報道も出た。

「体のためだから、ディスカウントされているものを探して買ってはいるけど、かかる費用もバカにならない」(30代主婦)という声も聞かれるが、独居老人が集まる地域でボランティアを続けている人(50代、公務員)はこんな話をしていた。

「週に一度、炊き出しをしていますが、ここに住むのはみな年金もない老人で、マスクを買うお金も節約する人ばかり。『どうせもうこんな年だから、いつ逝ってもおかしくないから』なんて言ってマスクをしない人もいます。貧しければ悪い空気を吸うしかないのかと暗澹たる気持ちになりましたよ」

 文在寅大統領は大統領選挙時、「2020年までにPM2.5を30%削減する」と公約に掲げて、ディーゼル自動車規制などの対策なども含めた「特別法」が昨年9月に国会でとりあげられた。しかし、それは手つかずのまま。「6月の統一地方選挙をにらんで、管轄する各省庁へ強く出られないのが現状」(冒頭の記者)だという。

市民にとって切実なのは「空気」

 4月2日、文大統領は大統領府の首席補佐官らとPM2.5問題解決のための会議を招集した。折しも、この日の各紙の一面トップは北朝鮮で公演した韓国芸術団の話題だったが、「北朝鮮関連のニュースに市民の反応が薄いのが気になります。今、切実なのは『空気』のようで、中国に毅然とした提案をするなど、目に見えるPM2.5対策ができなければ、北朝鮮外交で得点を重ねても6月の統一地方選挙への影響は必至でしょう」(同前)。

 昨年から中国には弱腰外交と批判されている文政権だが、ことが人々の暮らしと直結する健康問題だけに、思わぬところで足を掬われかねない。

 それにしても、日本でも偏西風によって運ばれてくる中国のPM2.5が騒がれたが、最近は改善されつつあるそうな。ということは、韓国のPM2.5問題はやはり、韓国内での原因も大きいということ。韓国で最悪を観測した3月25日、日本のPM2.5値は標準だった。しかし、風向きによっては、韓国でパワーアップした大気汚染が日本の上空に流れつく可能性もある。なんだか心配になってきた……。