「社会保険料」という名目で徴収するのは常套手段
なぜ岸田首相は国民を欺くような説明をするのだろう。御本人は深く考えず、官僚が用意した紙を読んでいるだけなのかもしれない。子育て支援にせよ、防衛費にせよ、きちんと説明して税負担を求めるのが政治家ではないのか。支持率低下や議席減を恐れて、国民が反対する政策は口に出さず、誤魔化そうとしているのか。
税金ではなく、「社会保険料」という名目で徴収するのは、日本の官僚たちの常套手段だ。保険料率を上げれば、給与が増えなくても天引きされる保険額はどんどん増えていく。社会保険料は「事業者と折半」というルールなので、給与をもらう人たちの負担感は小さい。だが結局は、企業は社会保険料の支払いを含めた「人件費総額」を見ているので、社会保険料が上がれば、新規採用を抑えたり、賃上げを抑制しようとする。結局は働く人にしわ寄せが来るわけだ。
増税と違い保険料率の改定は国民に見えにくいこともあり、反対の声が出ない。実は、それに味をしめた経験があるのだ。
保険制度でやってはいけない「他目的への流用」
厚生年金の保険料率は2004年9月までは13.58%(半分は会社負担)だったものが毎年引き上げられて2017年9月には18.3%になった。1回の法律改正で10年以上にわたって引き上げることを決めたので、その後は国会審議にもかけられず、毎年負担が増えていった。13年間で4.72%も料率が引き上げられたのだ。法改正の時は、18.3%で打ち止めにしてそれ以上は増やさないという約束だったのでその後は頭打ちになっていたが、今回の子育て支援の財源として再び使おうとしているわけだ。官僚にとってはまさに「打ち出の小槌」なのだ。
これは保険なのだから、いずれ皆さんにも給付金として戻ってくるので税金とは違います、というのが説得文句だが、今回はこの「負担と給付」の関係が成り立っていない。つまり負担する人が将来、直接恩恵を受けるわけではない。子どもが増えればあなたの年金が安泰です、という言い方はできるが、そこには何の保証もない。つまり、保険制度としてやってはいけない他目的への「流用」に近いものなのだ。