「兄ちゃんも、クスリ抜きに来てるんでしょ?」
素性を問わず、どんな客も受け入れる足立区の銭湯の思い出を紹介。ときには暴力団からリクルートも受けるその異常な光景とは? 足立区生まれ、足立区育ちの著者・山田ルイ氏の新刊『ルポ足立区』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
◆◆◆
刺青だらけの銭湯
近年、幅広い世代で空前のサウナブームが巻き起こっている。YouTuberやテレビタレント、アイドルなど、影響力のある方々があらゆるメディアでサウナ好きを公言していることも大きな理由のひとつだろう。
そんなサウナブームと関連して注目されているのが、銭湯の存在だ。最新の設備を整えたいわゆる「スーパー銭湯」はもちろんのこと、昔から街にあるようなレトロな銭湯も同じく人気を集めている。
足立区には、昔ながらの銭湯が数多く存在している。『銭湯といえば足立』というフリーペーパーが区の公式で発行されるほど、街ぐるみで銭湯を愛している地域なのだ。
僕が子どものころは、銭湯は地域の交流の場にもなっていて、近所の友達やおじさん、おばさんたちとよく顔を合わせたものだった。ただ子ども心に、「これは普通のことなのか?」と違和感を覚えずにはいられない点があった。
足立区の銭湯には身体に墨が入っている人が多く、はっきり言って治安最悪だったのである。
普通は若者が多少うるさくしていたとしても、見て見ぬフリをするのが当たり前だ。だが、足立区の銭湯ではそうはいかない。
不届き者は刺青の入った大人から遠慮なく怒鳴り散らされるし、水をぶっかけられたり、最悪の場合、ぶん殴られることもある。
憩いの場である銭湯でも、ひとたび礼を欠けば痛い目を見ることになるのだ。