さらに学校では、ゲーム屋に出入りしているというだけで一目置かれた。「あいつはゲーム屋に行ってるらしい」「この間、クオカード10枚出したらしい」……。目立ちたい盛りの中学生からしたら、たまらない優越感だ。
僕たちは、ゲーム屋を通して少しずつ悪いことを学ぶようになった。
店に置き忘れられたタバコやメダル、あるいは薬物なんかも、僕たちにとっては大切な戦利品だった。
当然みんなシラフではないから、そういった類の忘れ物は本当に多いのだ。床に落ちている怪しいパケを見付けたら、それを靴で踏んで隠してから、ゆっくりと自分のほうに引き寄せていく。落とし物を拾うような素振りでパケを拾い上げて、何食わぬ顔でポケットに入れる。お宝ゲットだ。
なぜ誰もゲーム屋に文句を言えないのか?
悪いことといえば、店内にあった両替機も印象深い。
両替機は金が無い客たちからいつも狙われており、半年に1回ほどのペースで壊されては金が盗まれていた。
当然店のオヤジさんもいろいろと対策をするのだが、それは客側も同じだ。勘付かれないように時間をかけて、数日単位で少しずつ壊していく手口も編み出された。
たまにオヤジさんが両替機の鍵を店に置きっぱなしにしているときもあり、これも大チャンスだった。両替機を壊すような乱暴な真似ができない中学生にとっては、この鍵を狙う作戦の方がより現実的でもあった。
仲間と盗んだ小銭を握りしめて、当時流行していたKappaのジャージを買いに行ったことがある。5、6人で行って全員買うことができたということは、1着1万円だとして6万円くらいにはなっていたはずだ。当時のことを思い出すと店のオヤジさんには申し訳ないが、そもそも違法博打をしていることを考えると、なんとも言えない気持ちになる。
こんな施設が中学校の隣にあるなんて、問題視されるのが当然だろう。
しかし、周りの生徒、そして大人たちも含めて、誰ひとりとして声を上げることはなかった。そこには、明確な理由がある。
このゲーム屋は、地元で代々続く地主が管理する土地にあった。さらに店を管理しているオヤジさんは、引退した元ヤクザだ。この人は僕の先輩のお父さんでもあり、周りでは知らない人はいない有名人だった。