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 そんな麻里はサバイバーとして失われていた人生を取り戻そうとしたのか、元交際相手との交際当時「もう一度高校をやり直したい」と勉強をしていたようだ。さらに「弓道やスケート、ボーリング、バレエ、ピアノ、ドラム、ダーツ、卓球など」計9つの習い事をこなしていた。スーパーの給料で、どのようにやりくりしてそこまでの習い事を続けていたのかと思いきや、「父親の生命保険金」を受け取っていたようだ。そしてまさにこれが、翔さんが抱いていたもうひとつの大きな不満だった。

※写真はイメージです ©beauty_box/イメージマート

「姉に150万円振り込まれてる」

 父親は自身の生命保険の死亡保険金受取人を長女である麻里としていた。年150万円が10年にわたって支払われることになっており、麻里はこれを複数回受け取っていたが、翔さんは姉が父親の死亡保険金を受け取っていることを聞かされていなかった。知ったのは事件直前。家にあったハガキを見て、察したのだという。複数の友人たちが、翔さんから聞いていた。

「翔の家に行ったとき、ハガキを見せてもらい『姉に150万円振り込まれてる。父の保険金だと思うけど、何も話聞いてないんだけど』と言っていた。前々から翔は、姉に部屋や風呂を汚されるとか言っていたので、自分の案として、姉にその保険金を持たせて、違う住まいを探してもらうのはどうかと言った」(翔さんの友人の証言)

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「まず翔は、お父さんの死亡当初、財産をきょうだいで分けると言っていました。だけど、分ける予定だったのに、姉が全部使い込んでるという話をしていました。家賃や光熱費は折半なのに、しばらくお姉さんは払ってなくて、翔が代わりに払って、後から大きな額を返してきたり、部屋を見ると高そうなものを買っていたり。お金がないと言っているのに急に買い物をし始めました。翔はその様子を見て、おかしいと思って確認したら、何度か(麻里の口座に)お金が振り込まれていたそうですが、でもすぐに引き出されて口座に残ってないと言っていました」(翔さんの元交際相手の証言)

 翔さんの勤務先上司は「仕事の理解が早く、専門学校卒でも夜勤をなかなか任せられないのに、翔さんは5ヶ月で仕事を覚えた」と、翔さんの働きぶりを高く評価していた。非常勤としての採用から4ヶ月で正社員となり、その後昇給していたという。21歳の若さながら「貯金が趣味」(元交際相手の証言)でもあった。

 真面目にコツコツと人生を進めているなか、姉が父親の死亡保険金を密かに受け取っており、しかも折半するはずの生活費も支払わずに散財していれば、怒りが湧くことは想像に難くない。

なぜ遺体を解体したのか

 だが事件の日、どういった経緯により、きょうだい間で刃物を持ち出す諍いとなったのかは判然としないままだ。麻里が言うには、直前に翔さんの部屋に行き、母親の話をしたという。