「少し前に母親が叔父と家に来ましたが、弟が『不法侵入だ』と言ったということがありました。弟が母を毛嫌いするのは当然悪くないと思いますが、叔父はそんなことないのに、母と来ていただけで敵扱いしていたので、叔父はそんなふうではないし、心配してきてくれたのだと説得する形になって……」(麻里の被告人質問での証言)
母親を憎むのは分かるが叔父には敵意を向けるな……と長く説得したところ、激昂して揉み合いになり、一度は逃げたが、包丁を握って弟に向かっていったところ、太ももの辺りに刺さったと思う……と麻里は語った。
「意識して刺したいと思って刺したわけじゃないです。弟の動きが見えて私も動いてしまった感じです」
こうして翔さんを刺したのち、麻里はいつも行く焼肉屋に行き、ひとりで焼肉を食べてから、家に戻って遺体を解体しはじめたという。
殺害経緯は「覚えてない」
被告人質問では「異世界に急に飛んだような……カーテンっていうか、離れているような、薄い膜のようなものが張られているみたいな……」など、乖離の症状があったというような証言も飛び出し、弁護人も冒頭陳述で「過剰適応や感情の麻痺があった」と述べていたが、麻里は法廷でしきりに泣いており、元交際相手が証人出廷した際には立ち上がって「ごめんね、今までありがとう!」と発言するなど、むしろ感情をあらわにする場面が多く見られた。
肝心な殺害経緯の大部分を「あっ、覚えてないです」と繰り返した麻里だが、元交際相手の言葉を振り返ると、本当に覚えていなかったのか、それとも、殺したと認めたくなかっただけなのか、分からなくなる。
「もし麻里が翔くんを殺していたら、絶対人に言わないと思う。なぜなら麻里は周りの目を非常に気にする。麻里が翔くんを殺したことを知られてしまうのは彼女にとって最悪なことだからです」(麻里の元交際相手の調書)
検察は懲役18年を求刑したが、一審・千葉地裁は殺人罪の成立を認めず傷害致死罪を適用し懲役10年の判決を言い渡した。さらに二審・東京高裁は一審を破棄し「過剰防衛」を認め、懲役7年とした。2019年7月、最高裁でこれが確定している。
事件当時、きょうだいは本当はどんな話をしたのだろうか。