うつ病やPTSDといった「心の病」。生涯のうちに一度でも罹患する確率は80%とされ、誰もが他人事ではない。本書は、未だ解明されていないその仕組みに脳科学からアプローチしている研究者たちの最新の研究成果をまとめたものだ。
「精神疾患を扱った本には臨床医によるものが圧倒的に多いです。本書は脳科学を軸に幅広い研究者の方に語っていただくことで、類書とは違う切り口を提示することができました」(担当編集者の家田有美子さん)
本書の著者は現役の精神科医、精神科医から転身した基礎神経科学者、生粋の基礎科学者、心理学者など16名。シナプス、ゲノム、脳回路と認知の仕組みなどの脳の働きが、どのように「心の病」に結びつくのか。自閉スペクトラム症やADHDも含む脳の状態が、「心」に具体的にどう影響するのか。話題はミクロからマクロまでの広がりを持っている。
本書が性別年齢問わず多くの人に読まれているのは、やはり「心の病」が身近で切実な問題だからだろう。
「脳の中で何が起こっているのかを知ることで、自分自身の症状や、家族など身近な人の行動を理解するきっかけになった方も多いようです」(家田さん)
基礎研究の進展によるロボットやニューロテクノロジーの活用といった新たな治癒の道筋にも触れており、希望も感じさせる一冊だ。