そんな状況では、新規で豚骨専門店を始めようとする気概がそがれるのも理解できる。
非豚骨のきっかけになった意外な店
福岡で非豚骨が増えていった背景も述べておこう。
山路さんによれば、福岡で、非豚骨ラーメンとして登場して存在感を示していたのが、「一風堂」だ。世界的にも有名な、豚骨ラーメンのグローバルチェーンだが、1985年の創業時から醤油ラーメンを提供していた。
今でも1号店の「大名本店」では「博多しょうゆらぁめん」を提供しているほか、独自の醤油ラーメンを提供する支店も存在する。
さらに2012年に開業した「支那そば月や 本店」の影響も大きいだろう。「九州極上醤油ラーメン」のキャッチコピーを掲げ、福岡・店屋町にオープンした。福岡出身で、東京や海外に出て多様なラーメンに触れ、学んできたオーナーだからこそ、福岡では当時まだ珍しかった醤油ラーメンを展開し、注目を集めた。
山路さんによれば、福岡市内に非豚骨ラーメン店が増え始めたのはこの頃からだという。さらに、スマホやSNSの普及もあって、福岡の人々は県外にある非豚骨ラーメンの情報を得て、「非豚骨=ラーメンのいちカテゴリ」として、受け入れ始めたのではないかと話す。
「豚骨ラーメン離れ」の真相
気になるのは、これだけ多種多様な非豚骨ラーメンが増えている昨今、福岡の人々の間における「豚骨ラーメン離れ」である。
豚骨ラーメン店にとってはピンチの状況なのか。この問いに対する識者ふたりの答えはNOだ。
「豚骨ラーメンに慣れ親しんできた福岡の人々のベースには豚骨への愛、大事にしている“豚骨ラーメン体験”があります。それゆえ非豚骨は、今日はラーメンを食べようかと考えたとき、豚骨と並ぶ選択肢のひとつになっている印象です。非豚骨には華やかなものも多く、全くの同列というよりは少しハレの気があるかもしれませんが」(山路さん)
「福岡の人は良くも悪くも保守的なところがあります。また、総じて郷土愛や地元意識が強く、モツ鍋、明太子に並ぶ福岡の名物として、豚骨ラーメンがあることを誇りに思っている人が多い印象です。福岡で生まれ育った僕自身も、大好きな福岡を盛り上げるため、とんこつラーメンという一観光資源になり得る食べ物を、より美味しくアップデートしながら提供し続けていきたいです」(山田さん)